2022 Fiscal Year Research-status Report
分子性強相関物質におけるバンド構造とバンドフィリングのその場制御
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22K03534
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
川椙 義高 東邦大学, 理学部, 講師 (40590964)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 分子性導体 / ディラック電子系 |
Outline of Annual Research Achievements |
強相関物質における量子多体効果を調べるため、電子密度や電子の運動エネルギー(およびその異方性)など、複数のパラメータをその場制御する実験手法を確立することを目指す。具体的には、電界効果によるバンドフィリング制御(キャリアドーピング)と基板の曲げひずみを組み合わせ、分子性強相関物質(モット絶縁体や電荷秩序絶縁体)を金属、超伝導体、ディラック電子系などに変化させる。これによって、非従来型超伝導と磁気秩序の関係や、強相関絶縁相からディラック電子相への電子相転移を詳細に調べる。 令和4年度は圧力によって強相関絶縁相からディラック電子相へ相転移する分子性物質に着目し、ひずみ効果と電界効果を組み合わせたディラック電子相の実現を試みた。特定の結晶軸方向に対するひずみ効果が予想よりも大きく、本来1.5GPa(15000気圧)の圧力が必要なディラック電子相が、わずか1%程度の基板曲げひずみで実現することがわかった。これにより、ひずみによるバンド構造制御が分子性物質に対して効果的であることが確認できた。令和5年度以降、電界効果によるバンドフィリング制御を組み合わせてディラック電子系への相転移を詳しく調べる。また、量子スピン液体候補物質に対してもひずみ制御を行い、磁気抵抗効果から、この物質の絶縁相においてスピンギャップが形成されていることを示した。この実験では試料を金属絶縁体転移のごく近傍の圧力に導く必要があり、前述のように分子性物質に対してひずみ効果が大きいだけでなく、細かな圧力制御が可能であることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和4年度は、当初の計画通り異方的ひずみによるバンド構造の制御を分子性強相関物質について行い、当初の予想よりも大きな効果を得てひずみ効果によるディラック電子相の実現に成功した。一方で電界効果によるバンドフィリングのその場制御については当初の計画よりやや遅れている。このため、全体としては研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度は、令和4年度にひずみ制御に成功した分子性ディラック電子系に電界効果によるバンドフィリング制御を組み合わせて強相関絶縁体/ディラック電子系の間の相転移を詳しく調べる。また当初の計画通り、量子スピン液体候補物質における超伝導相図を得る。
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Causes of Carryover |
本研究の遂行には低温強磁場測定が不可欠であり、無冷媒超伝導マグネット付きクライオスタットを使用している。コンプレッサーを利用した無冷媒クライオスタットにはメンテナンスが不可欠であり、装置の不調に備えてメンテナンス費用を確保したが、当該年度には特に不具合が起きなかったため次年度使用額が生じた。しかし当該年度終了直後に装置に別の不調(マグネット電源故障)が生じたため次年度使用額を使用してマグネット電源を購入する予定である。
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Research Products
(10 results)