2022 Fiscal Year Research-status Report
Theory of emergent inductor and capacitor based on topological materials science
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22K03538
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
荒木 康史 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究副主幹 (10757131)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | トポロジカル絶縁体 / スピントロニクス / 磁性体 / 創発インダクタ |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は主に、本研究計画全体の基礎となる、トポロジカル絶縁体における創発インダクタンス・キャパシタンスの基礎理論の構築を行った。 トポロジカル絶縁体特有の電磁応答(トポロジカル電磁応答)と、磁性絶縁体における磁気揺らぎ(スピン波)の協調により現れる、インダクタンス・キャパシタンスを扱った。トポロジカル電磁応答を記述する「トポロジカル場の理論」に基づき、スピン波、及び素子に働く電磁場の自由度を導入した定式化を行った。この理論に対して経路積分方式を適用することにより、トポロジカル絶縁体の接合系が交流電流・電圧に対して示す特性を記述する、複素インピーダンスを導出するための理論的枠組みを構築した。 この基礎理論の適用例として、様々な次元におけるトポロジカル絶縁体の示す、インダクタンス・キャパシタンスを導出した。特に、現在実験において広く使われる、3次元トポロジカル絶縁体と磁性絶縁体の接合界面について、インダクタとしての特性を評価した。その結果、この接合系は最高で約1GHzという高周波数帯で、且つ1μA程度の低電流でもインダクタとして動作することを示した。これは、トポロジカル絶縁体は表面にのみ伝導状態を持つため、内部に余分な電流を流すことなく動作するためである。この特性を用いると、素子の電力効率を記述する品質係数(Q値)は、1GHz帯では100-1000という高値を達成できることを示した。この値は現在市販されている高周波インダクタの最高値に匹敵するものである。この接合系は10-20nm程度という薄膜化が可能であるため、高周波信号処理回路の圧倒的な集積化への適用が期待される。 本研究成果については日本物理学会(春季大会)で口頭発表を行い、現在論文を投稿中である。また、本研究成果の実施形態について特許出願を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度は本研究課題の初年度として、電子系トポロジーに基づく創発インダクタ・キャパシタの基礎理論を構築する計画であった。この理論構築は2022年度中に完了し、研究成果の外部発表(論文・学会発表)についても行っている。また、本研究成果に基づいた新たな研究プロジェクトについても、研究打合せが開始している。そのため、初年度の研究は、研究計画通り順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の2年目以降は、以下の方策で研究を推進していくことを計画している。 (1) 初年度(2022年度)に確立した基礎理論の更なる適用対象として、反強磁性秩序を持つトポロジカル絶縁体や半金属を扱う。これらの物質は初年度に扱った接合系と異なり、内部(バルク)全体でトポロジカル電磁応答と磁気秩序が共存するため、より強いインダクタンス・キャパシタンスが得られることが期待される。この研究に関しては、海外の研究機関と共同研究に向けて研究打合せが進行中である。 (2) また、創発インダクタンス・キャパシタンスを示す物質の探索も進める。特に希土類元素(レアアース)を含む層状磁性体は、単純な結晶構造を持つにもかかわらず、元素置換により多彩な磁気秩序を示すことが知られている。強磁性・反強磁性の他、らせん磁気構造等も観測されており、創発インダクタンスの有用な実現候補として期待される。このような物質を系統的に扱い、元素置換と磁気秩序の関係性を基礎的な理論モデルから理解することを目指す。 (3) 更に本研究の発展の方向性として、電流だけでなく、熱流に対するインダクタ・キャパシタ機能を創出することを試みる。電流と異なり、熱流は電子だけでなくスピン波、フォノンなど様々な自由度によって媒介され、その舞台は金属に限られない。最初の段階として、磁性絶縁体のスピン波自由度によって実現される熱流インダクタ・キャパシタを扱う。電流とのアナロジーによる理論解析を行うと共に、微視的な磁気ダイナミクスの数値シミュレーションによる計算も試みる。
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Causes of Carryover |
2022年度は理論解析による研究が主であったため、当初計画で予定していた計算機・ソフトウェア等の購入を次年度以降に延期したこと、及び研究成果を発表した日本物理学会がオンライン形式で開催されたため、出張に係る費用を使用することがなかったことから次年度使用額が生じた。次年度使用額は、2023年度分研究費と合わせて、国際会議参加及び出張旅費(5月、仙台)の他、本研究で得られた成果に関する特許の海外出願料に使用する予定である。
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