2022 Fiscal Year Research-status Report
非熱揺らぎによる高濃度コロイド懸濁液系の流動化メカニズム解明
Project/Area Number |
22K03552
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
江端 宏之 九州大学, 理学研究院, 助教 (90723213)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 濃厚コロイド懸濁液 / マイクロレオロジー / 非熱揺らぎ / 非ニュートン流動 |
Outline of Annual Research Achievements |
生細胞の細胞質はタンパク質などのコロイド成分がガラス化するほど高濃度に詰まっているが、流動的である。これは、代謝活動に伴う生体高分子のアクティブな力生成により、細胞質が非熱的に揺らぐためであると考えられている。しかし、細胞質を含む高密度粒子系において、ミクロな非熱的揺らぎが流動性(レオロジー)を制御するメカニズムは明らかでない。本研究では、パラメーターの制御の容易な高濃度コロイド懸濁液をモデル系とし、非熱揺らぎによる高密度粒子系の流動化メカニズムを明らかにすることを目指す。本年度はまず、ガラス転移点に近い濃厚コロイド懸濁液のレオロジー測定と画像解析を行った。高濃度コロイド懸濁液のマイクロレオロジー測定では、音響光学偏向器とピエゾステージによる2重のフィードバック機構を用いることで、粒子に高精度で長時間一定の力を加えながら定常せん断粘度測定を行った。また、画像解析により濃厚コロイド懸濁液の構成粒子の画像の時間変化から、中間散乱関数と動的感受率を計算する手法を開発した。さらに本研究では比較のため、薬剤を用いて細胞骨格を阻害した細胞や代謝を抑制した細胞の細胞質粘弾性についても測定を行った。その結果、通常の細胞質は流動性を保っており、ジャミング転移点近傍の濃厚粒子系特有の粘弾性の周波数依存性を示すことが分かった。一方で、薬剤により代謝活動がほぼ停止し非熱揺らぎが小さくなった細胞は、低周波で固体的に振る舞うことが分かった。これは代謝による非熱揺らぎにより細胞質が特に低周波領域で流動化していることを示唆している。また、細胞骨格阻害は細胞質の粘弾性にほぼ影響を与えず、非熱揺らぎの大きさと粘弾性の大きさの間に負の相関があることが分かってきている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
光捕捉によるマイクロレオロジーにおいて、レーザー焦点位置の2重フィードバック制御を行うことで、高精度の力を粒子に加えつつ、マイクロスケールにおける濃厚コロイド懸濁液の非ニュートン粘性を精密に測定することが出来た。画像解析においては、濃厚コロイド懸濁液の構成粒子の画像の時間変化から、中間散乱関数と動的感受率を空間波数を変えながら計算する方法を開発した。先行研究にて、泡や大腸菌懸濁液の濃厚系で、画像解析から中間散乱関数・動的感受率を計算されているものの、波数依存性は測定できていなかった。我々の方法では粒子位置の緩和時間の波数依存性を計算することが出来る。この手法により、画像解析の中間散乱関数から求めた緩和時間と、パッシブマイクロレオロジーから測定した緩和時間が定量的に一致することを示すことが出来た。ガラス転移濃度に近い濃厚コロイド懸濁液の画像解析から動的感受率にガラス系特有のピークが現れることも示し、動的不均一性が定量的に測定できる可能性が示唆されている。また、生細胞内部の粘弾性測定により、細胞骨格以外の細胞質はコロイドガラスに似たレオロジー特性を持つことが分かった。熱平衡系の濃厚コロイド系では低周波領域で弾性的になることが知られているが、我々は非熱揺らぎのある細胞質では低周波でも流動的であることを示した。これは、細胞質がアクティブガラスとして振る舞っていることを示唆している。さらに、細胞骨格以外の細胞質レオロジーは非熱揺らぎの大きさには依存する一方、細胞骨格の有無にはよらないことを示した。細胞骨格以外の細胞質レオロジーは恒常性を保っている可能性がある。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの測定によりガラス転移点に近い高濃度コロイド懸濁液は非常に小さい力に対し、shear thickeningを起こすことが分かってきている。一方で、濃度が低くなると小さな力に対するshear thickeningが起こらなくなることが示唆されている。そこで、濃度を調整した高濃度コロイド懸濁液を作成し、shear thickeningが起こる条件を明らかにする。これまでの研究で、濃厚コロイド懸濁液は粒子を牽引しながらレーザー焦点位置を数kHzで揺らがせることで非熱揺らぎを加えても、粘性があまり変わらないことが分かってきている。一方で、数Hz程度の周波数で力が揺らぐ場合、粘性が低下することが示唆されている。そこで、より詳細に周波数を変えながら非熱揺らぎが粘性に与える影響を明らかにする。特に、shear thinning領域で観測される、測定粒子のスティック・スリップ運動と非熱揺らぎの関係に着目する。shear thickening領域ではスティック・スリップ運動がほとんど起こらないが、非熱揺らぎによりこの運動が誘発されれば、粘性の低下が起こると期待される。本年度の研究により、細胞内でも定常牽引実験が出来るようになった。通常細胞では細胞骨格の一種のビメンチンネットワークに測定粒子の動きが阻害され上手く粒子を牽引できない一方、ビメンチン阻害した細胞では牽引できることが分かった。そこで、無生物系のコロイド懸濁液に対応する生物系の実験として、ビメンチン阻害細胞の代謝抑制度合いを薬剤により系統的に変えることで、細胞内の非熱揺らぎの大きさを変えながら定常牽引測定を行う。これにより、細胞質における非熱揺らぎの大きさと定常せん断粘度の関係を検証する。
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Research Products
(13 results)