2023 Fiscal Year Research-status Report
高分子フィルムに対する有機溶媒の優先透過および吸蔵現象
Project/Area Number |
22K03558
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
千葉 文野 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 講師 (20424195)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
客野 遥 神奈川大学, 工学部, 准教授 (10746788)
秋山 良 九州大学, 理学研究院, 准教授 (60363347)
勝本 之晶 福岡大学, 理学部, 教授 (90351741)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | ポリオレフィン / ホスト-ゲスト構造 / 選択的透過 / 液体分離 / アルカン |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は高分子isotactic poly(4-methyl-1-pentene) (P4MP1)のアズキャストフィルムが、長短の直鎖アルカンに対し、短い方のアルカンを優先的に透過させる現象を見出し、このような優先透過現象を半定量的に調べた。その結果、この優先透過現象の原因が2種類あることが分かった。それは、(a)分子長による透過のし易さと、(b)透過後の溶媒の不均一性である。(a)については、攪拌子により系の不均一性を除去した状態においても優先透過が見られた。加えて、短鎖アルカンの水素を全て重水素で置き換えた溶媒について、同様の実験を行った結果、この系では長短のアルカンの密度(比重)の大小が入れ替わっているにもかかわらず短鎖アルカン優先透過がみられた。これら複数の実験結果から、密度(比重)の大小や(b)のような不均一性とは無関係に、分子長が短い方が透過し易いことが示された。(b)については、長鎖アルカンの密度(比重)が短鎖アルカンより大きいことに起因して、透過後の溶媒不均一性が予想された。そこで、透過後の溶媒をガスクロマトグラフィーにより計測したところ、予想通り溶媒不均一性が確認された。この不均一性に起因して(a)による優先透過が助長されることが分かった。 また、このような優先透過現象が、長短の直鎖アルカン同士のみならず、直鎖ヘキサンと枝分かれヘキサンや、ベンゼンとシクロヘキサンなどの組み合わせについても見られた。溶媒の優先透過現象がマクロにみられ、液面位置の移動として観察される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
見出した現象が新しく奇妙に思われ、その原因を特定することに時間を要したが、2種類の原因が特定できた。これまでの我々の優先透過現象の実験は定量性に欠けていたが、ようやく定量性あるデータが得られ、上述の2種類の要因が存在することを実験的に示すことができてきたと思われる。今後はこの2種類の要因がそれぞれどのくらい優先透過現象に効いているのかまでを定量したく考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究で扱っている優先透過現象は、いわゆる半透膜とは少し異なり、両方の溶媒を概ね同じオーダーで透過させていると思われる。つまり、長短のアルカンはフィルムに対し、オーダーとしては同程度の透過速度を有すると思われる。しかし短い方のアルカンの速度が特に初期において大きいことに起因して優先透過現象がマクロに見られ、一度透過すると、今度は混合溶媒の不均一性が生じ、これにより優先的な透過性が助長されると考えられる。 今後の研究の方針としては、このような現象が今回の高分子P4MP1フィルムに特有のものなのかどうかを明らかにするため、同様の実験をセルロースフィルムに対して水系で行うことを計画している。また、P4MP1フィルムに関しては各種溶媒の拡散係数の計測も検討している。
|
Causes of Carryover |
昨今の急激な重水素化試薬の値上がりにより、重水素化試薬を2023年度の予算内で購入することを断念し、先に重水素化試薬を用いない実験を行うことにした。これにより重水素化試薬の必要性を見極め、必要な最小限度の量を2024年度の予算と合わせて購入することとしたため、持ち越させていただく必要があった。従って持越し分は主として重水素化試薬とこれを用いた中性子散乱実験のための旅費として使用することを予定している。 また、謝金については、当初は発表資料やデータ解析補助、実験補助を、研究者ではない方にお願いするつもりでいたところ、優秀な学部4年生2名に恵まれ、研究の一部として精力的に進めていただくことができたため不要となり、残額は2024年度の論文化と学会発表に使用させていただく予定である。
|
Research Products
(7 results)