2022 Fiscal Year Research-status Report
一様ポテンシャル場での揺らぎから発現する運動の秩序性の発達に関する研究
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22K03560
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
塩井 章久 同志社大学, 理工学部, 教授 (00154162)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山本 大吾 同志社大学, 理工学部, 准教授 (90631911)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | アクティブマター / パターン形成 / 秩序運動 / 非平衡揺らぎ |
Outline of Annual Research Achievements |
巨視的に一様なポテンシャル場から揺らぎを利用して巨視的秩序運動を生み出すモデル系を創製し,生物的な巨視的な秩序運動は,そこに内在する揺らぎ(微小なランダム運動)とどのように関係しているかを明らかとすることが本研究の目的である。このために,本研究では,①油水界面のマランゴニ不安定性が生み出す一見ランダムな対流が,界面に浮かべた浮体の直進,自転,公転などに変化していく物理化学的な条件の検討,②細かな力学的振動を与えられたラチェット構造のギアが一方向に自転する機構の検討,③振動的な化学反応によって分子集合体や高分子が,巨視的な時間空間的な構造変化を示す系をモデル系として研究を進める。①~③の全てについて本年度から着手し,②の課題について研究が大きく進展し論文発表できる成果が得られた。①については,用いた油水界面系における揺らぎの強さが十分ではないことが明らかとなり,物質系の変更を考えている。③については,実験の再現性が確立し基本的な速度過程を決めている物理化学的因子が明らかとなった。ここでは,もっとも成果が得られ論文発表ができた②の課題について概要を記述する。 ②の系では,垂直に細かな振動を発生する加振器の上に水槽をおき,その上に浮かべたラチェットギアの回転について研究を行った。ラチェットギアが一方向に安定して回転する振動数,振幅が,ギアのサイズに依存することを明らかとした。垂直方向の加振で発生する水面波が,水の体積保存を満たすために水平方向への水の移動を生み出し,これがギアを回転させていることが分かった。水面波のパターンがギアと同軸の対称性を有する時,水平方向への水の移動がギアの一方向回転のトルクを生み出す。この機構は,ギアの回転方向がラチェット形状と水面が形成する巨視的パターンとの共同効果により決まることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画におけるテーマは,巨視的な系において非平衡性の揺らぎから巨視的な秩序運動が形成される機構の理解である。この観点から,系に力学的なノイズを与えて非対称構造物の自転を観察する,「研究実績の概要」に示した②の課題は,本研究のもっとも基幹となる課題である。本年度,この課題が大きく進展し国際的な専門学術誌に論文発表できたことは大きな成果である。「研究実績の概要」に示した①の課題については,様々な試行錯誤を行い,当初考えていた油水界面系では揺らぎの大きさが不十分であることが分かった。ただし,このことが数理的な検討を伴って系統的に明らかとなったため,当初予定とは異なる別の物質系に変更していくための重要な知見となった。したがって,この結果は,研究の進展においてネガティブなものとは考えていない。「研究実績の概要」に示した③の課題については,pH振動反応に対応して変形する高分子ゲルを用いた実験を行い,予想していたようなゲルの運動を得ることができた。しかし,その再現性を十分に確立することが出来なかった。そこで,pHのステップ上変化に対してゲルが変形する速度を詳しく検討した結果,pH上昇によるゲルの膨潤過程とpH低下によるゲルの収縮過程の律速段階が全く異なることが分かった。基本的な速度過程を理解することは,現象の再現性を確立するうえで最も重要であり,この点において,かなりの進展があったと考えている。これらの事実から,研究は「おおむね順調に進展している」と判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
「研究実績の概要」に示した①の課題については,新しい試みとして2通りの系を考えている。一つは,マランゴニ効果で自走する油滴の集団運動を研究することで,運動スケールの巨視化の物理の一端を解明したい。本年度に用いていた油水系では,当初の計画を果たせなかったが,それはこの油水系が生み出すマランゴニ不安定性による対流が,巨視的な非対称構造物を動かすには弱すぎたことが理由である。一方,この油水系の油相の体積を小さくし水相のpHを変えると,マランゴニ不安定性で発生する油水界面の攪乱効果が強くなることが分かった。さらに,このような小さい油相(油滴)を多数,水相におくとこれまでに報告が見られないような特異な集団挙動を発生することも分かった。この集団挙動には時空間的なパターンの生成消滅が再現性良く見られた。今後は,この現象を対象に,微小な非平衡性の揺らぎが巨視的なパターンとして発達する機構を研究していく予定である。「研究実績の概要」に示した②の課題については,本年度はギアを非対称形状としてラチェット効果を与え,一様な媒質の揺らぎから秩序運動が発達する機構を研究した。一方,様々な揺らぎを利用して秩序運動を形成している生物では,物理化学的な相互作用の空間的非対称性に基づくラチェット効果を用いていると考えられている。これを考慮し,今後は,対称ギアを用いて,その表面の物理化学的な特性を非対称に分布させるなどの方法で作製した物理化学的ラチェットを用い,微小加振状態の水相におかれたギアによる媒質の攪乱の整流を試みる予定である。「研究実績の概要」に示した③の課題については,ゲルの変形の速度過程が理解できたため,用いるゲルのサイズとpH振動反応の周期とをコントロールし,化学振動に同期したゲルの周期的変形を実現する最適な実験条件を予測することが可能となると考えている。このような方向に沿って研究を進める。
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Research Products
(12 results)