2022 Fiscal Year Research-status Report
バイオマス高分子薄膜の結晶性・構造・配向制御 -超薄膜ガラスの科学とその応用-
| Project/Area Number |
22K03562
|
|---|
| Research Institution | Kwansei Gakuin University |
|---|
Principal Investigator |
高橋 功 関西学院大学, 理学部, 教授 (10212010)
|
|---|
| Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
| Keywords | 生分解性高分子 / 薄膜 / 表面 / 結晶化 / ガラス状態 / ポリ乳酸 |
|---|
| Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は生分解性高分子であるPLLAと、導電性高分子であるP3HTのキャスト膜内での分子の配向性と結晶性の調査を行った。基板依存性、温度依存性に重点をおいた研究を進めてきたが、今回はこれらの高分子にとって必ずしも良好とは言えない溶媒を用いて高分子試料を溶かし、それらの溶液からキャスト膜を形成することで、いわゆる溶媒依存性の本格的な調査に乗り出したという段階である。PLLA、P3HT共に薄膜形成に優れているとされる溶媒はクロロホルムであるが、毒性の強さから次第に使われなくなる傾向にある。他の溶媒（可能なら毒性の弱い溶媒）を用いた場合、どのような半結晶膜が形成されるのかを調べることはリスクや環境負荷の少ない高分子デバイス製造に際しても有用な情報を与え得るものと期待される。
PLLAでは溶媒としてクロロホルム以外にトルエン、2-ブタノン、テトラヒドロフラン、アセトン、酢酸ブチル、2-プロパノールを用いてシリコンウエハー上のキャスト膜の結晶構造、結晶性、結晶化度、配向性等の評価を行った。
P3HTの場合はクロロホルム以外にキシレン、トルエン、アセトンを溶媒に用いた試料の調査を行った。評価手法は主に微小角入射X線回折および原子間力顕微鏡を併用し、P3HTの場合は大型放射光施設SPring-8のBL03XUでスピンコート膜（厚さ10nm以下の超薄膜）の観察も行った。
その結果PLLAの場合は溶媒が極性溶媒か非極性溶媒かにより熱処理後の分子の配向性が大きく異なるということが明らかになった。その一方でP3HTに関してはPLLAほどの溶媒依存性は確認されていない。水素結合により凝集するPLLAでは極性の有無が結晶成長により大きな影響を与えるということはある程度予期された結果であるが、極性の強さの順に溶媒の効果が現れるという様な単純なルールは見出されておらず、より詳細な検討が必要である。
|
| Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2022年度の研究進捗状況が「やや遅れている」と判断した理由は、１）P3HT膜の結晶成長の溶媒効果について、新たに3種類の溶媒しか調査できていない点、２）生分解性高分子PHBについて調査を開始出来ていない点、３）PLLAについて多層膜の作製と調査が未達成であるという点である。主力装置であるX線回折計の不調が主な原因であるが、このような状況は普段から生じ得ることであり有効な対策が打てなかったことは研究代表者の怠慢と能力不足の何ものでもない。装置については2022年度に修理を行ったため当面は問題無く実験が行えるものと思われるため2023年度はペースを上げることで予定していたレベルに近づけていきたい。
|
| Strategy for Future Research Activity |
P3HT膜の結晶性成長の溶媒効果については溶媒の種類を増やして調査を続行する。
PHBの結晶成長の調査を開始するが、今回は3つの視点：種々の溶媒による効果の観察；0℃以下に急冷することで一旦ガラス状態にしてからの遅い結晶成長の観察；比較的強い水素結合を有する絶縁性の高分子PVPhを微小量混合したPHB膜の結晶成長の観察を行う予定である。
PLLAについては、PLLA/PDLA多層膜、PLLA/PHB多層膜、PLLAP3HT多層膜のいずれかひとつについて多層膜を作製して主に結晶成長の温度依存性の観察を行う。異種高分子の界面領域でどのようなPLLA結晶が形成されていくかを明らかにしたい。
|
| Causes of Carryover |
2022年度は主力装置の不調により一部の実験を遂行することができず、その結果予定通り研究費を使用することができなかった。幸い装置の状況も改善されたため「次年度使用額」は2022年度に実施を予定していた実験の試薬と基板の購入に使用する。
|
Research Products
(2 results)
