2023 Fiscal Year Research-status Report
バイオマス高分子薄膜の結晶性・構造・配向制御 -超薄膜ガラスの科学とその応用-
Project/Area Number |
22K03562
|
Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
高橋 功 関西学院大学, 理学部, 教授 (10212010)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 生分解性高分子 / 薄膜 / 表面 / 結晶化 / ガラス状態 / ポリヒドロキシ酪酸 / ポリチオフェン / 導電性高分子 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度と同様、バイオマス高分子としてポリヒドロキシ酪酸(PHB)と導電性高分子ポリチオフェン(P3HT)膜の結晶化・ガラス化の放射光も含めたX線回折および原子間力顕微鏡による観察を行い、高分子薄膜固有の結晶化機構の解明を試みた。 特にPHBのキャスト膜においては、結晶育成時にしばしば現れる多重回折線に焦点を絞った研究を行った。多重回折線の溶媒依存性、熱処理プロセス依存性、基板依存性などの詳細な調査により、多重回折線は結晶性高分子に見られる多形構造ではなく、格子定数が不連続的に異なる準安定相であるとの結果を得た。表面や界面の状況の違いや、薄膜ゆえの高分子易動度の異方性だけでは、α型の結晶構造を保ちつつ最大で5つもの準安定な格子定数が存在することは説明できない。薄膜条件下でαヘリックス間の水素結合の配列に“ワイシャツのボタンの掛け違え”のような構造乱れが生じるとのtentativeなモデルをたてているが、2024年度はそのようなモデルの妥当性を追求してみたい。 P3HTについてはキャリアの易動方向であるb軸を膜表面に垂直に配向させる努力を行った(通常の育成条件ではa軸が膜表面に垂直に配向する)。様々な結晶育成条件を試してみたが有機太陽電池等への応用に有利とされるb軸配向を実現するには至らなかった。ただし、放射光を用いた測定により、特定の残留溶媒下で急冷すると緩やかなb軸配向を伴ったままガラス化するということが発見された。今回偶然見いだされた乱れた構造をより秩序度の高い構造に変えるプロセスを確立できるなら、目標であるb軸配向膜の実現に大きく近づいたことになる。それ故、2024年度も引き続きP3HT配向膜の研究を継続する予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究条件その他に対してはコロナ禍による制約を受けなくなったものの、昨今の円安と人件費の上昇は、特に研究代表者のような年配の(よって、10年以上前に整備した装置を用いていることの多い)研究者にとっては消耗部品の交換と修理に要する費用で研究費のほとんどを使い果たしてしまうという状況が続き、新たな装置や試料を購入したり、海外での学会で発表・交流を行い最新の情報を得たりするということが非常に難しくなっている。 とはいえ、「研究実績の概要」でも記したように2023年度は本研究計画に沿った内容の研究の進展もあって、総合的に“やや遅れている”との自己評価を下すに至った。
|
Strategy for Future Research Activity |
「研究実績の概要」で記した2点:1) PHBの離散的な準安定構造の分子レベルでの機構解明および 2) b軸配向P3HT膜の実現、に焦点をあてた研究を推進したい。1)では準安定構造の分子量依存性と分子量の異なるPHBのブレンド試料の測定を行う必要性があるが、現状ではそのような試料の調達から始めなければならず、コロナ禍により停滞していた国内外の研究者との共同研究を再開することを考えている。2)ではSPring-8等の放射光を用いたその場測定の機会(ビームタイム)を増やして少しでもより構造秩序の高い膜を形成できる条件を探索したい。
|
Causes of Carryover |
X線回折測定時に試料温度をコントロールする装置のガス圧力を調整する部品(レギュレータ)が交換時期を過ぎていて、2023年末は様子を見ながら実験を行っていた。幸い2023年度中は不調になることも無く、件の外国製のレギュレータを購入することがなかったため「次年度使用額」が生じることになったが、2024年度は新規購入する必要がある。
|
Research Products
(5 results)