2022 Fiscal Year Research-status Report
Cottonテンソルで記述される重力場方程式を持つ重力理論に関する包括的研究
Project/Area Number |
22K03599
|
Research Institution | Health Sciences University of Hokkaido |
Principal Investigator |
原田 潤平 北海道医療大学, 薬学部, 准教授 (10550139)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
|
Keywords | 重力 / Cottonテンソル / 銀河回転曲線 |
Outline of Annual Research Achievements |
Cottonテンソルで記述される重力場方程式を持つ重力理論の定量的なテストを目的として,重力場が非常に弱い場合かつ物体から十分遠方であるという条件での近似を用いて銀河の回転曲線問題について検討した。まず84個の回転銀河サンプルの星とガスのデータを天文学の文献から収集し,ニュートン重力(ポアソン方程式)に基づいてバルジ・ディスク・ガスの各成分の回転曲線を計算し,その計算結果が天体物理学者によって得られていた先行研究に一致していることを確認した。次にCottonテンソルで記述される重力場方程式の有効方程式に基づいて銀河の回転曲線を計算し,ダークマターを仮定することなく観測された回転曲線を説明できること定量的に示した。重力場方程式がCottonテンソルで記述される重力理論では,質点の重力ポテンシャルとして,ニュートンポテンシャルのほかに線型ポテンシャルも許されることが本質的である。ここで重要なのは,本研究に用いた銀河サンプルが高表面輝度銀河だけでなく,低表面輝度銀河をも含んでいることである。というのも,ダークマターモデルは高表面輝度銀河の回転曲線を説明するように考えられてきたモデルが多く,一般的には,低表面輝度銀河の回転曲線をうまく説明できない場合が多いことが経験的に知られている。そのため,ダークマターモデルで低表面輝度銀河の回転曲線を説明するためには,なんらかの仮定を導入する必要があった。一方,本研究のアプローチでは,高表面輝度銀河・低表面輝度銀河をわけて考える必要がなく,またさらなる仮定を導入する必要もなく,ひとつの重力理論の枠組みだけで高表面輝度銀河の回転曲線・低表面輝度銀河の回転曲線を説明可能であることがわかった。本研究の成果は,アメリカ物理学会のPhysical Review D誌に掲載された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Cottonテンソルで記述される重力場方程式を持つ重力理論は,提案されたばかりの重力理論であり未知の部分が多い。とりわけ,重力場方程式が3階テンソル方程式であるという特徴は,一般相対論のアインシュタイン方程式や多くの修正重力理論の重力場方程式が2階テンソル方程式であるのとは対照的である。このように,Cottonテンソルで記述される重力場方程式は従来の理論とは著しく異なる特徴を持つ重力場方程式であり,その基礎研究や応用研究のいずれにおいても先行研究はほぼ存在しない。このような状況において,本年度の研究成果として,粗い近似の範囲内ではあるものの観測結果との定量的なテストを実施できた意義は大きい。もちろんこれは,Cottonテンソルで記述される重力場方程式についての初めての定量的テストである。このことから,研究はおおむね順調に進展しているといえる。引き続き,理論的基礎・観測的研究の両面において研究を推進したい。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策として以下の2点が挙げられる。まず第1の点として,銀河への応用において近似の精度を上げることと銀河サンプルの数を増やすことがある。実施した研究では,Cottonテンソルで記述される重力場方程式がダークマターなしに銀河の回転曲線を説明できる可能性があるかどうかを知ることが主目的であったため,まず最初のステップとして粗い近似で研究を進めた。その結果,ダークマターなしに銀河の回転曲線を説明する可能性があることを見出せたので,次のステップとしてより正確な近似で計算をすることが考えられる。具体的には,一般相対論のWeyl解に相当する重力解を導出し,実際の銀河に適用して結果がどうなるか調査したい。また最初の研究では84個の銀河の観測データを収集したが,その数をさらに増やして調査したい。第2の点として,海外の研究者とのやりとりから,Cottonテンソルで記述される重力場方程式を持つ重力理論は,Yang-Millsゲージ理論に基づくYang重力理論の一般化になっていることがわかったので,Yang重力理論との関係などについて調査したい。
|
Causes of Carryover |
参加予定していた学会・研究会に都合があわず参加できなかったため。次年度分として,学内業務の状況をみながらスケジュールを調整し,学会・研究会に参加する使用計画である。
|