2022 Fiscal Year Research-status Report
Unified description for cluster-hsell structures and contribution to nucleosynthesis
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22K03618
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Research Institution | Osaka Metropolitan University |
Principal Investigator |
板垣 直之 大阪公立大学, 大学院理学研究科, 教授 (70322659)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 昭弘 (東崎昭弘) 大阪大学, 核物理研究センター, 協同研究員 (20021173)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 原子核構造 / クラスター構造 / 元素合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
原子核が複数の部分系から構成される構造をクラスター構造と呼ぶ。特にα粒子(4He原子核)は結合が強く、原子核中で良い部分系たり得ることが知られている。このαクラスター構造が主に軽い原子核の励起状態に現れることが、これまで幅広く研究されてきた。しかし、原子核の基底状態はより一体にまとまっており、それぞれの核子が独立に運動する「シェル模型」の描像が支配的である。星の中における元素合成は、小さな原子核の合成によって行われる。すなわち、小さな原子核が集まってまず励起状態にクラスター的な構造を形成し、そこから電磁遷移によってシェル模型的な基底状態へと移行する。これを理論で扱う際には、クラスター構造とシェル構造のコンシステントな記述が決定的に重要である。 代表者板垣が提案し、発展させてきたAntisymmetrized quasi cluster model (AQCM)は、αクラスター模型の波動関数をシェル模型へと変換するものであり、両者を同じ枠組みで統一的に記述する。今回の計画では、これをさらに発展させ、クラスター構造が、一部の軽い原子核のみならず、より一般的に重要である可能性を示す。 本年度は、主に、炭素や酸素、あるいはチタンという我々の身の回りに存在する原子核が、果たしてクラスター構造を持つのか、それともシェル構造を持つのかの比較検討を行った。その際、AQCMで作られた原子核密度を、原子核反応理論へと適用し、既に存在する実験結果と比較することにより、実際の原子核が、クラスター・シェルのどちらの描像に近いのかを、可視化可能とした。その結果、炭素や酸素原子核はクラスター構造の成分が強く、これがこれらの元素の合成に大きな影響を与えていることが示された。この研究成果に関しては、複数の論文で発表するとともに、プレスリリースを行うことで、広く一般社会に対しても成果を公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度は、数本の投稿論文の作成に加えて、一般向けの解説文の発表やプレスリリースなどを行い、当初の計画を越えた成果を発揮したと言える。 ヘリウム原子核は2個の陽子と2個の中性子が強く束縛した4核子系であり、しばしば原子核の中で「αクラスター」と呼ばれる部分系を形成することが知られている。一方で、クラスター構造は、原子核の標準的な見方である「シェル構造」では理解することが困難である。シェル構造においては、それぞれの核子は相関せず、中心の周りを運動していなければならない。これまでは、それぞれの原子核が、実際にはクラスター構造を持つのか、それともシェル構造を持つのか、はっきりと区別する方法がなかった。 代表者らが中心となって開発を進めてきたAntisymmetrized quasi cluster model (AQCM)はクラスター構造と殻構造を1つの枠組みで表現できる模型であるが、今回、この模型と原子核反応模型を組み合わせることにより、それぞれの原子核がシェルであるのか、クラスターであるのかが判別できることが分かった。これは予想外の成果であり、大きな進展であると言えると思う。これに関してはプレスリリースを行った。 また、今年度は、微視的・第一原理的な手法により、シェル模型を拡張することにより、炭素原子核のクラスター構造を記述することも示した。これに関しては、Nature communicationsに論文発表を行った。 さらに、今年度は、前述のAQCMを拡張し、原子核中にΛ粒子が存在した、ハイパー核の構造研究を介した。特に、Λ粒子の個数の増大と共に、原子核におけるシェル構造とクラスター構造の競合現象がどう変化するのか、ベリリウムや炭素といった原子核において研究し、その成果を投稿論文として発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後計画では、長年の重要な課題である元素合成過程において、原子核中のごくわずかなアイススピン対称性の破れがいかに貢献するか、という問いに挑戦する。星の中での3つのα(4He)からの12C(炭素)の合成や、12Cとαから16O(酸素)の合成は、最も重要な元素合成過程でありながら、長年の未解決の問題を含んでいる。元素合成では、複数の原子核が集まった際に、合成される原子核の励起状態としてクラスター構造が形成され、そこからシェル的(より一体的)な構造を持った基底状態へと電磁遷移する。ここで、12Cや16Oは陽子と中性子の数が等しく、これらの原子核の波動関数の陽子部分と中性子部分は基本的に対称である(アイソスピン対称性がある)。核子(陽子・中性子)間に作用する核力も、基本的にはこの対称性を支持する。しかし、電気的な力であるクーロン力は陽子間のみに作用し、陽子と中性子の波動関数の微妙な違いを引き起こす。この微妙な違いこそがアイソスピン対称性の破れであり、わずかな破れの成分の混合により、クラスター的な励起状態からシェル的な基底状態への遷移の際、E1電磁遷移が可能となる。E1遷移は電磁遷移の中でも最も遷移確率が高く重要であるが、アイソスピンが対称では貢献しえない。したがって、原子核中のごくわずかなアイソスピン対称性の破れが非常に大きな効果として元素合成確率を左右することになる。実際、星の中で12Cとαから16Oが合成される元素合成過程においては、E1遷移由来が半分程度貢献すると示唆されているが、実験的な不定性も大きく、この不定性を減らすことが元素合成のシナリオ全体においても長年の重要な課題である。これまでの伝統的なクラスター模型では、アイソスピン対称性の破れはほとんど考慮されてこなかった。
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Causes of Carryover |
今年度はCOVID-19の流行により、予定していた海外での成果発表を一度も行うことができなかった。2023年度にはそれを再開する予定である。また、ノートパソコンの導入が遅れてしまっているが、これも2023年度に実施の予定である。
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