2023 Fiscal Year Research-status Report
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22K03642
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
辻川 信二 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (30318802)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 一般相対論 / スカラー・テンソル理論 / 重力波 / ブラックホール / 中性子星 / インフレーション / 暗黒エネルギー / 暗黒物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
一般相対論とその拡張理論の検証を行うために,スカラー場と重力が結合したスカラー・テンソル理論に基づくブラックホールと中性子星の解を構築した.その上で,ブラックホール・中性子星連星の合体前に放出される重力波の波形を理論的に計算し,将来の観測によって,中性子星が持ち得るスカラー荷に対してどの程度の制限がつけられるかについて考察した.特に,中性子星が自発的なスカラー化を起こす模型では,重力波の観測から模型のパラメータに強い制限を与えることが可能であることを示した.さらに,ガウス・ボンネ項と呼ばれる2次の曲率項がスカラー場やベクトル場と結合している理論において,静的球対称時空における新しいブラックホール解を発見し,強重力場中での重力理論の検証に重要な示唆を与えた.また,ワイル曲率項や3次以上の曲率項が存在する系でのブラックホール解について調べ,解が線型摂動に対して安定であるパラメータ領域について明らかにした. これらの研究に加えて,曲率の2次の項によって宇宙初期のインフレーションが引き起こされる模型において,ワイル曲率項が果たす役割について調べた.その結果,ワイル項の存在によって線形密度揺らぎが指数関数的に増大し,宇宙背景輻射の観測と整合的な密度揺らぎが生成されないことを示した.この成果は,スカラー曲率の2次の項によって引き起こされるスタロビンスキー・インフレーション模型のユニーク性を示した意味で重要な価値を持つ.さらに,宇宙後期の進化において,暗黒エネルギーと暗黒物質が結合した模型を新たに構築し,宇宙背景輻射などの観測から両者の結合に関する有意な証拠を得た. 上記の成果は,7編の学術論文として執筆するだけでなく,名古屋大学,タイのChulalongkorn大学,京都大学での研究会において発表し,科研費による研究成果の幅広い周知を行なった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究テーマの一つとして,暗黒エネルギーと暗黒物質が結合した模型に対して観測的な制限を与え,それらの関連性を調べるという課題があった.これに関して,名古屋大学の市来氏と北京大学のLiu氏とともに統計解析を行い,2つの暗黒成分の間の運動量交換に関する有意な観測的な兆候を見出した.この成果は,今後の暗黒エネルギーと暗黒物質の研究の進展の上で重要な示唆を与えたと言え,当初の予定よりも早く興味深い成果が得られている. また,コンパクト天体の研究に関しては,トレース異常項やワイル項のような高次の曲率項が存在する系でのブラックホール解の構築と線型摂動に対する振る舞いについて調べ,安定性の解析から生き残るブラックホール解について明らかにした.これらの研究は当初予定していたスカラー・テンソル理論でのブラックホール摂動の解析をさらに一般化したものであり,計画以上の成果が得られていると言える. さらに,ブラックホール・中性子星連星合体のインスパイラル段階において放出される重力波に関して,実際に観測されたイベントGW200115を用いて,一般相対論からのずれに関する制限を与えた.特にスカラー・テンソル理論において,中性子星がスカラー化している場合に持ちうるスカラー荷の値に対して上限をつけた.その結果は,中性子星の自発的スカラー化と呼ばれる現象に対して厳しい制限を与えるものであり,これも当初の予定を上回る成果である.
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Strategy for Future Research Activity |
暗黒エネルギーと暗黒物質の研究に関しては,今後得られる重力レンズなどの新たな観測データを用いて統計解析を行い,本年度の研究で明らかになった2つの暗黒成分の運動量交換の可能性をさらに精査していく.それに加えて,ハッブル定数の不一致問題を解決することを目指した理論模型を具体的に構築し,様々な観測データを用いて模型の有効性について調べていく. ブラックホールと中性子星に関しては,本年度までの研究でかなり一般的な拡張重力理論において摂動方程式を導出できたため,今後はそれをブラックホールの準固有振動,中性子星の潮汐変形などの研究に応用し,それぞれの理論が予測する観測量について明らかにする.さらに,コンパクト連星系の合体前に放出される重力波について,有効場の理論を用いて一般的な定式化を行う.さらに,今後具体的な連星系合体のイベントが見つかった際には,一般相対論からのずれに関して,観測的な制限を与える研究も行っていく.
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Causes of Carryover |
2023年度の夏に予定していた国際会議参加の予定がなくなったため. 2024年度は,海外出張およびコンピュータ購入で使用する予定.
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Research Products
(15 results)