2023 Fiscal Year Research-status Report
フォトニック結晶の共鳴遷移放射を応用した革新的素粒子検出器の基礎開発
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22K03650
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
山口 洋平 東京工業大学, 理学院, 助教 (30751119)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 光学多層膜 / 遷移放射 / ハドロン同定 / ジェットフレーバー識別 |
Outline of Annual Research Achievements |
超相対論的な運動を行っている荷電粒子が誘電率の境界を複数回通過する際に、各境界面で生じる遷移放射が共鳴を起こすと期待される現象の理解を深めた。先行研究ではエックス線領域における放射については近似式を利用した計算式が得られていたが、本研究が対象とする可視光域では十分な理論式は存在していなかった。当該年度の研究の結果、マックスウェル方程式を出発点として、共鳴現象に対してフォトニック結晶特有のバンド構造が現れることに現象論的な理解を与えた。さらに共鳴周波数では結晶の膜数に応じて非線形に放射強度が増加し、可視光域全体では放射光子数は線形に増加することを確認した。数値計算によって放射光子数が推定可能になり、共鳴現象を実証するための最適な膜設計が決定した。 SiO2とNb2O5をそれぞれ230 nm, 80 nmで100層積み重ねるという、誘電体多層膜としても挑戦的な1次元フォトニック結晶を、成膜業者の協力の元にスパッタリングで実現した。また対照試験のために膜数を減らした50層、10層のフォトニック結晶の成膜も完了した。 共鳴現象を実証するための試験の準備も大幅に進展させた。実験装置内における放射領域と放射光センサまでの屈折率の整合をとることで、先行研究のデザインでは全反射のため観測できなかった、最も共鳴が大きくなる角度領域の測定を可能にする装置を考案した。装置は当該年度の研究によって大部分が完成しており、既に宇宙線ミューオンを利用した背景事象の測定にも成功した。この背景事象は主にチェレンコフ光によるもので、共鳴遷移放射との角度の違いを利用して分離を行う。背景事象の測定時にチェレンコフ光が反射することで、信号光領域に入り込むことが明らかになったが、これを取り除くためにチェレンコフ光の反射光を逃がす機構も考案し、これを製作した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
共鳴現象の実証が期待されるフォトニック結晶の成膜に成功したことがまず大きな進捗である。加えて実証実験のための測定器の開発も順調に進んでいる。チェレンコフ光の反射光は当初想定されていなかった背景事象であるが、これを排除するための機構も既に装置に組み込むことに成功している。理論・数値計算面での進捗も順調である。特に先行研究で不足していた、共鳴現象の現象論的な理解を進めたことは、今後共鳴現象の応用可能性を広げる意味において非常に重要である。また期待される光子数の計算も可能になり、共鳴の実証を行う上で必要となる理論計算はほぼ完了したといってよい。 一方で共鳴現象の応用先として期待される、超高エネルギーのハドロン同定およびそれを利用したジェットフレーバー識別へのインパクトの研究が滞っている。これは上述の理論計算によって、共鳴現象が威力を発揮するエネルギー領域の予想が下方に修正されたからである。新しい理論計算に基づいた機械学習の設計が必要となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
加速器の電子ビームラインを用いた、可視光域の遷移放射共鳴現象の実証実験を行う。成功すれば可視光域共鳴の世界初の観測となる。その後理論式との詳細な比較を行い、成膜技術にフィードバックを行う。特に膜厚の不定性は位置依存性を持っていると予想され、これが共鳴を弱めたり、角度分布を歪めたりと様々に影響する。100層もの成膜は誘電多層膜の専門家としてもあまり例を見ない試みであり、実際に共鳴現象を測定することで初めて判明する事項が多い。この結果から将来の共鳴現象の応用可能性を議論する。 また応用の一つとして期待される超高エネルギーハドロンの同定に基づいたテラ電子ボルトスケールジェットのフレーバー識別について、機械学習アルゴリズムの開発を進める。 以上の成果をまとめて論文として発表する。さらに物理学会等での成果の発信も行う。
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Causes of Carryover |
初年度に生じた遅れが完全には解消できていないためである。遅れのほとんどは当該年度で吸収し、フォトニック結晶の製作まで完了した。当初の予定ではビームテストによる共鳴現象の実証試験までを当該年度で行う予定だったが、これは次年度の課題として残っている。このビームテストを行うことで、次年度は遅れが全て解消し、予定通りの支出を行う計画である。
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