2022 Fiscal Year Research-status Report
南半球における超高エネルギー宇宙ガンマ線観測で解明する銀河系宇宙線起源の謎
Project/Area Number |
22K03660
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐古 崇志 東京大学, 宇宙線研究所, 特任助教 (00705022)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 宇宙線物理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、宇宙線の発見以来 100 年以上未解決の謎:「銀河宇宙線はどこでどのように加速されている のか?」を解明しようとしている。そのために必要不可欠な sub-PeV 領域の超高エネルギーガンマ線観測を目的として、南半球に位置するボリビア・チャカルタヤ山中腹 (標高4740 m、南緯16度、西経68度)において ALPACA 実験を開始する。ALPACA 実験装置は、401 台のプラスチックシンチレーション検出器から成る有効面積 83,000 平米の地表空気シャワーアレイ (AS アレイ) と、総面積 3,600 平米の水チェレンコフ型ミュー粒子検出器アレイ (MD アレイ)から構成される予定である。南半球で現在稼働中あるいは数年以内の将来計画で、sub-PeV 領域のガンマ線に感度を持つ 観測装置は ALPACA 実験以外に無く、ALPACA 実験は、南天における超高エネルギーガン マ線天文学・天体物理学の開拓を目指す先駆的な実験と言える。 本年度は ALPACA 実験の前段階として 1/4 スケールの ALPAQUITA AS アレイ(プラスチックシンチレーション検出器 97 台)を建設した。各検出器に 2 インチ光電子増倍管の取り付け、高電圧および信号ケーブルの敷設、データ取得システムの整備を行ない、データ取得を開始した。初期データ解析の結果、月の影(地球に向かって飛来する宇宙線が月に遮蔽された結果、月方向の宇宙線フラックスが減少する現象)が見え始めており、データ取得が順調に進んでいることが確認された。 2023 年度には MD アレイ 1 プール分を建設して ALPAQUITA AS アレイと連動させ、南天で世界初となる sub-PeV 領域での宇宙ガンマ線広視野連続観測を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
プラスチックシンチレーション検出器から成る地表 AS アレイに関しては予定通りに建設が進んでいるものの、地下 MD アレイの建設がやや遅れ気味になっている。MD アレイに注入する水の確保と水質の検査、MD コンクリート躯体の構造、ボリビアでの建設業者の選定等の作業に予想以上に時間がかかっているためである。作業をより迅速に進めるため、ボリビア側の研究者と隔週でのオンラインミーティングを行っている。 一方、AS アレイのデータ取得および解析は順調に進んでいる。宇宙線・宇宙ガンマ線は、地球の大気中で核子・電磁相互作用を連鎖的に引き起こし、多数の二次粒子を含む空気シャワ ーが地表に降り注ぐことになる。AS アレイ検出器に空気シャワー中の荷電二次粒子が入射すると、二次粒子はシンチレータ中でエネルギーを損失する。そのエネルギー損失の量に応じてシンチレータが発光し、放出された光子は下部に取り付けられた光電子増倍管まで直接あるいは検出器内を反射して到達し、その後光電子増倍管によって検出・増幅され、電気信号が出力される。各検出器について、信号の電荷量と検出器がヒットした時刻を記録する。検出器間の時刻の差をもとに、宇宙線の到来方向を求め、電荷量の情報から宇宙線のエネルギーを求めることができる。到来方向・エネルギー決定精度の評価のために宇宙線フラックス中の「月の影」を観測したところ、おおよそ期待通りの結果を得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
2023 年度に MD アレイ 1 プール分(面積 900 平米)を建設し、ALPAQUITA AS アレイと連動実験を開始する。MD 水槽内を空気シャワー中のミュー粒子が通過した時に放射されるチェレンコフ光を反射率90%のタイベックシートで反射させ、天井に取り付けた 20 インチ光電子増倍管で検出する。ミュー粒子は地下の水槽まで貫通してくるのに対して、空気シャワーの電磁成分は 2.5 m 厚の土壌(約 20 放射 長)で遮蔽される。宇宙線由来の空気シャワーはガンマ線由来のものと比べて約 50 倍ものミ ュー粒子を含むので、MD アレイを用いてミュー粒子数の少ない空気シャワーを選択するこ とで、宇宙線雑音を除去してガンマ線事象を抽出できる。 2024 年度に AS アレイ検出器約 300 台、MD アレイ 3 プールを追加敷設し、ALPACA 観測装置を完成させる。ALPAQUITA AS アレイ + MD 1 プールの連動実験で取得する約 1 年間のデータを用いて、南天で世界初となる sub-PeV 領域での宇宙ガンマ線広視野連続観測を行う。いくつかの非常に明るいガンマ線天体、特に、sub-PeV 領域で非常に大きなフラッ クスが期待される正体不明の未同定天体 HESS J1702-420A について詳しく解析を行う。これらの天体について 10 - 1000 TeV でフラックスを測定し、PeV 銀河宇宙線加速の可能性を議論し、論文にまとめる。
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Causes of Carryover |
2022 年度は 130 万円の交付を受けた。そのうち国際会議 COSPAR 2022 (アテネ、ギリシャ)にて口頭発表を行うための旅費として 371480 円および参加費等として 106476 円、また、データ解析用コンピュータ等の購入に 311825 円を使用し、残高が 510,219 円となった。2022年9月3日から9月13日までの期間、国際会議 NOW 2022(オストゥーニ、イタリア)にて口頭発表のため海外出張を行い、また、2023年 3月6日から3月30日にかけて ALPAQUITA 建設のためボリビア出張を行ったが、それらの旅費は ALPACA 実験グループ内の別の研究費財源から支払うこととなったため、510,219 円を次年度使用に回すことにした。2023 年度に請求した助成金額(110 万円)と合わせて、2023 年度に使用可能な助成金は161万円程度である。現時点で5月、6月に国際会議(シカゴにて CRA2023, ロサンゼルスにて ASTRONUM2023)にて口頭発表が決定しており、さらに12月にも国際会議(サンフランシスコにて AGU fall meeting 2023)出張が予定されている。また、夏から秋頃に1ヶ月から2ヶ月程度のボリビア出張を予定している。これらの旅費に加えて少額のコンピュータ周辺機器の購入に161万円の助成金を充てる予定である。
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Research Products
(17 results)