2023 Fiscal Year Research-status Report
Decada Sea Ice Variability and Predictability in the Antarctic Seas
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22K03727
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
森岡 優志 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 付加価値情報創生部門(アプリケーションラボ), 主任研究員 (90724625)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 南極海 / 海氷 / 十年規模変動 / 予測可能性 / 大気海洋結合モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
米国NOAA/GFDLで開発された大気海洋結合モデルを用いて、南極海の海氷に見られる十年規模変動の物理プロセスと予測可能性を明らかにした。モデルの海面水温を観測データに、モデルの大気の風と気温を再解析プロダクトに近づけて(初期化して)、1960年から現在まで過去再現実験を行った。その結果、1980年代に観測された海氷の減少は、南極海の深い対流が強まったことで、亜表層の温かい海水が表層に取り込まれて生じることがわかった。南極海の深い対流の強化は、1960年代から1970年代にかけて亜表層の水温が高くなり、鉛直方向の成層が弱まったことと関係していた。また、2000年代以降に観測された海氷の増加は、南極海で西風が弱まり、それに伴って北向きの表層流(エクマン流)が弱まり、亜表層の温かい海水の湧昇が弱まったことで生じることがわかった。西風の弱化は、南半球の大気の変動現象である南半球環状モードが負の位相になったことと関係していた。 次に、上記の大気海洋結合モデルを用いて、1960年から現在まで毎年10年先まで計算する過去再予測実験を行った。モデルの初期値の違いから生じる予測精度の違いを評価するため、20個の異なる初期値からなる実験を行った。その結果、南極海の海氷を6-10年先まで統計的に有意な精度(観測データとの相関係数が0.4以上)で予測できることがわかった。特に、南極海の深い対流の強化をよく再現できる実験で、1980年代に観測された海氷の減少を予測できることがわかった。また、負の南半球環状モードに伴う西風の弱化をよく再現できる実験で、2000年代以降に観測された海氷の増加を予測できることがわかった。これらの結果は、モデルの大気と海洋の初期化が十年規模の海氷変動の予測に重要な役割をしていることを示している。 以上の結果を国際誌に出版し、国内外の学会で発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
南極海の海氷に見られる10年規模変動と予測可能性について、日本と米国で開発された2つの異なる大気海洋結合モデル(SINTEX-F2, SPEAR_LO)を用いて過去再予測実験を行い、海氷の予測精度に関する研究成果を2つの論文として国際誌に出版し、計画通り進展していると言える。 1つ目の論文では、大気海洋結合モデル(SINTEX-F2)の海面水温、海洋内部の水温と塩分、海氷密接度を観測データで初期化して過去再予測実験を行った。南極海の中でも太平洋側に位置するアムンゼン・ベリングスハウゼン海において、6-10年先まで海氷の予測精度が高い(観測データとの相関係数が0.6以上である)ことがわかった。これは、太平洋側で初期化された海洋と海氷の変動が東向きの南極周極流によってアムンゼン・ベリングスハウゼン海まで移流されて、モデルが海氷を精度よく予測できることを表している。また、2つ目の論文では、大気海洋結合モデル(SPEAR_LO)の海面水温と大気の風と気温を初期化して過去再予測実験を行った。1つ目の論文と同様に、アムンゼン・ベリングスハウゼン海で海氷の予測精度が高いことがわかった。これは、モデルの大気を初期化することで、大気の変動を受けてモデルの海洋内部の水温や塩分、海氷などが間接的に初期化され、アムンゼン・ベリングスハウゼン海でモデルが海氷を精度よく予測できることを表している。 以上の結果は、モデルの物理構造に関わらず、モデルの海洋や海氷を正しく初期化することで、南極海の海氷を十年先まで予測できることを表している。南極海では海洋や海氷の観測データが十分でなく、長期的にモデルの海洋や海氷を初期化することが難しい。今後は、観測が十分に行われている大気のデータを用いて、モデルの大気も初期化することで、過去に遡ってより長期的に海氷を予測できることが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで、1960年代から現在までに観測された南極海の海氷を対象に、十年規模変動の物理プロセスと予測可能性を明らかにした。しかし、観測データの期間が短く、十年規模変動のサイクルが少なく、現象を十分に理解したとは言えない。そこで、より長期な古気候データを用いて再構築された海氷データを用いて、数百年前から現在までの海氷の十年規模変動の特徴を調べる。また、大気海洋結合モデルを用いて、数千年のシミュレーション実験を行い、海氷の再構築データで見られる十年規模変動との比較を行う。さらに、モデルの中で海氷の十年規模変動がどのように発生して、成長し、減衰するのか、一連のサイクルの物理プロセスを明らかにする。これまでの研究で関連性が明らかになった、南極海の深い対流と西風の変動に着目して、海氷の減少をもたらす深い対流の変動に西風が寄与していないか、また、西風の変動に海氷が寄与していないか、ラグ相関解析や合成解析を行い、大気海洋海氷相互作用の役割を明らかにする。 南極海の海氷は2015年までわずかに増加傾向であったが、2016年以降は減少傾向にある。この海氷の十年規模変動が温室効果ガスの影響を受けて、今後どのように変化するか、未だわかっていない。そこで、大気海洋結合モデルを用いて、現在から2100年まで温室効果ガスを産業革命前の一定値とした実験と将来の社会経済シナリオに合わせて増加させた実験を行い、海氷の十年規模変動の将来予測を行う。先行研究では、温室効果ガスの増加に伴って、南極海の深い対流が弱まるという報告がある。南極海の深い対流が弱まれば、海氷の十年規模変動が小さくなり、さらに温室効果ガスの影響を受けて、海氷が単調に減少していくことが予想される。2つの実験結果を比較することにより、海氷の十年規模変動における温室効果ガスの役割について、物理プロセスを明らかにする。
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Causes of Carryover |
2023年度は申請者が所属しているJAMSTECの在外派遣制度を利用して、米国NOAA/GFDLに滞在し、本課題について共同研究を実施した。滞在費の一部を科研費で負担したが、現地で行った研究成果の論文出版費をNOAA/GFDLが負担することになったため、次年度使用額が生じた。来年度は、新たに実施する研究の成果発表に必要な旅費や論文の出版費、データの保存に必要なハードディスクなどの物品費に、科研費を使用する予定である。
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[Journal Article] SIPN South: six years of coordinated seasonal Antarctic sea ice predictions2023
Author(s)
Massonnet F., Barreira S., Barthelemy A., Bilbao R., Blanchard-Wrigglesworth E., Blockley Ed., Bromwich D. H., Bushuk M., Dong X., Goessling H. F., Hobbs W., Iovino D., Lee W.-S., Li C., Meier W. N., Merryfield W. J., Moreno-Chamarro E., Morioka Y., Li X., Niraula B., Petty A., Sanna A., Scilingo M., Shu Q., et al.
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Journal Title
Frontiers in Marine Science
Volume: 10
Pages: 1-17
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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