2022 Fiscal Year Research-status Report
応力履歴依存粘性3次元球殻マントル対流モデルによるプレート運動の解明
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22K03788
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
宮腰 剛広 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 付加価値情報創生部門(数理科学・先端技術研究開発センター), 主任研究員 (60435807)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | プレート運動 / マントル対流 / 応力履歴依存粘性 / 3次元球殻 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、「応力履歴依存粘性」を導入した「3次元球殻」マントル対流モデルの開発を行い、地球史におけるプレート運動とマントル内部構造の共進化過程等を明らかにする事を目標としている。 プレートを構成する岩石が一旦割れた場合、破壊を受けた時の強さより応力が弱くなっても、割れた部分はそのまま維持されている。そのため地球上では同じ応力が掛かっていても、割れている部分と無傷である部分が併存している。すなわち、プレートの状態は過去の応力履歴に依存しており、このような「応力履歴依存粘性」モデル(Ogawa, 2003)が、Miyagoshi et al. (2020)によって3次元箱型モデルに導入されたが、本研究課題ではそれを「3次元球殻」モデルに拡張し、実際の地球に即したプレート運動とそれに伴う地球内部活動の発展史を調べる。 計画の初年度における本年度は、応力履歴依存粘性モデルをを3次元球殻版に移植した。そのモデルを用いて、「地球シミュレータ」等のスーパーコンピュータを用いてプレート運動を伴うマントル対流計算を開始した。当初想定していたよりも、球殻モデルではかなり計算が難しい事が分かった。具体的には、粘性率の温度依存性(これが存在する事により地球表面にプレートが形成される)及び応力破壊による粘性率の低下量が、最初からプレート運動レジームのパラメータで計算しようとすると収束が難しすぎて計算が全く進まなくなってしまう事が分かった。そのため両者とも、収束しやすい(小さな)値から徐々に目標値に近付けていくという工夫を行った。結果として、両者とも、ほぼ1000倍の依存性(マントル内部温度と表面の温度差により粘性率に1000倍の差が生じる、および破壊を受けた部分とそうでない部分とでは粘性率に1000倍の差がある)という、目標値にほとんど近い領域まで到達する事が出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度計画目標(応力履歴依存粘性モデルの3次元球殻版への拡張)をほぼ達成し、計算をある程度進める事が出来たため、おおむね順調に進展している。3次元箱型モデルに比べて、3次元球殻モデルではずっと計算が困難になる事については、実際に計算を開始してみて初めて判明した事ではあったが、計算を進める工夫を行うことにより目指しているパラメータ領域の計算にかなり近い所まで到達することが出来た。 粘性率の温度依存性は、プレート形成の最初の肝(マントル内部温度と比較して表面温度が低いことにより、表面に固いプレートが形成される)である。この値が小さすぎるとプレートが形成されないのであるが、値が大きくなるほど計算が難しくなる(粘性率の鉛直空間変化が大きくなるため、計算の収束が困難になる)。3次元球殻計算では、最初から非常に大きな(目標値に近い)値の計算を行おうとしても収束が困難であった為、小さな値から計算を始めて徐々に目標値に近付けて行くという方法を採用した。それにより、プレートが形成される下限に近いパラメータ領域(粘性率比が約1000倍)に到達する事が出来た。 さらに、応力破壊により粘性率がどれだけ低下するかという量も、同様に最重要パラメータの一つである。プレート運動が生じるには、この値がある程度以上に大きい事が必要であるが、こちらは海嶺や海溝という、プレートに比べてずっと狭く限られた領域だけ粘性率が低下する事になるため、この値が大きいと表面における水平方向不均質が著しく増大し、やはり計算が困難になる。最初から目標値に近い値の計算を行おうとしても収束が困難である事は温度依存性と同様であった為、まず温度依存性の方を上げてからこちらを徐々に上げていくという工夫を行う事により、こちらもほぼ目標に近いパラメータ領域(破壊および無破壊領域で、粘性率比が約1000倍)に到達する事が出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度以降も、概ね計画通り研究を推進して行く。来年度は、プレート運動レジームにはっきりと突入したパラメータ領域まで計算を持っていくこと、およびそのパラメータ領域で計算を安定的に進める事を目標とする。 本年度に到達したパラメータ領域(粘性率の温度および応力破壊に対する依存性が、両者とも約1000倍)は、両者ともに、プレート運動レジームに入るぎりぎりの所の値である。本年度の計算結果から、海溝(プレートが沈み込む領域)様の構造に加え、海嶺(プレート拡大領域、応力によってプレートが割れそこから両側反対方向に速度場が発生している領域)様の構造も見え始めている。またプレート内部では大体速度一様な運動が見え、(プレート運動のような)剛体運動に近い動きも見え始めている。しかしながらはっきりとプレート運動レジームに入ったと言える解を得る為には、温度依存性の強さは現在到達している値から数倍~10倍程度、応力破壊に対する依存性は数倍程度、上げる必要がある。来年度は、両者をこれだけ上げる事を第一の目標とする。加えてそのパラメータ領域である程度の期間(~数億年程度)の時間積分が行えれば、計画より少し進んだ部分まで研究を進められるため、ここまでを第二の目標として研究を推進して行く。 今のところ、応力破壊に対する依存性は現在到達している所から数倍程度上げれば良い為、それほど大きな困難はないだろうと予想している。一方温度依存性の強さについては、基本的にはマントル内部の熱源の強さを今より上げる事になるが、最大で10倍程度上げる必要があるため、場合によっては計算に困難が生じる事も予想される。仮にそうなった場合はその困難さの原因や内容にも依るが、時間積分の時間刻み幅をより小さくする、より細かい格子系で解く、等の対策を考え、研究を推進して行く。
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Causes of Carryover |
全体年度予算から非常に僅かな割合ではあるが、必要物品の予測費用と実際に僅かなずれが生じた。来年度は、主にデータ記憶装置の追加購入に充てる予定である。
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Research Products
(1 results)