2022 Fiscal Year Research-status Report
ダイバーシティを考慮した水素防爆対策:安全確認型の概念と国際安全規格に基づく方策
Project/Area Number |
22K03963
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Research Institution | Nagaoka University of Technology |
Principal Investigator |
門脇 敏 長岡技術科学大学, 工学研究科, 教授 (20185888)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 水素防爆 / ダイバーシティ / 安全確認型 / 本質的安全設計 / 国際安全規格 |
Outline of Annual Research Achievements |
将来の水素社会実現のため,エネルギー変換効率の向上,低コスト化と並んで重要な要素が安全性の確保である.水素安全利用のための本質的安全設計方策として,爆発・燃焼の範囲を狭め,着火した際の爆発による被害を最小限にすることが求められるが,その具体的な方策と最適化は十分に検討されていないのが現状である.本研究では,ダイバーシティを考慮した水素防爆対策として,ハイブリッド安全システム(安全な水素濃度低減システム)を提案し,安全確認型の概念と国際安全規格に基づく方策を実施する.そして,燃焼メカニズムの解析により周囲の水素濃度低減に適したシステム設計パラメータを同定し,爆発リスク低減の可能性追究と安全なシステムの妥当性実証を目的とする.本研究は,漏洩水素の濃度低減や水素の防爆対策に幅広く応用できる.また,燃焼工学分野に新たな知を還元できる学術的意義も有している. 本年度は,水素爆発の挙動解明として,燃焼実験を実施した.ここでは,水素/空気/窒素混合気を取り扱い,水素濃度と窒素濃度を変化させて,密閉型容器内で燃焼実験を行った.容器内に予混合気を充填し,中心点火することにより球状のデフラグレーションを観察し,水素濃度と窒素濃度による燃焼時の挙動を把握した.ここでは,シュリーレン法により,火炎伝播の様子や火炎面形状を高速度撮影した.また,容器内の圧力変化を測定した.実験で得られた主な知見は次の通りである. ・火炎半径の増加と共に火炎面にセルが形成され,それが発達して複雑な形状になる.このセルの形成は従来の燃焼実験でも観察されており,数値計算においても確認されている. ・水素濃度が高くなると共に,火炎の伝播速度は増大している.これは予混合火炎の燃焼速度が大きくなるからである. ・窒素濃度が高くなると共に,火炎の伝播速度は低下する.これは,予混合火炎の燃焼速度が小さくなることによるものである.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,水素防爆対策に係わる知見を得るため,水素/空気/窒素混合気を密閉型容器内で燃焼させ,球状のデフラグレーションを観察した.そして,水素濃度と窒素濃度による燃焼時の挙動を把握した.火炎面にセルが形成され,それが発達して複雑な形状になることを確認すると共に,燃焼現象に与える水素濃度と窒素濃度の影響を精査した. 燃焼実験では,直径300 mmの観察窓を有し, 内容積が73 L(3つの円柱による直交相貫体の形状)の密閉容器を用いた. 火炎伝播の様子は,高速度カメラを用いてシュリーレン法により撮影した. シュリーレン法測定装置は, 燃焼容器の観察窓よりも十分に大きい有効直径の凹面鏡を有しており, 燃焼容器の観察窓全体を観察することができる. また, 高速度カメラの撮影条件としては,撮影速度を10,000 fps, シャッター速度を1/50,000 sとした. 燃焼容器の内部を真空に引いた後, 水素/空気/窒素予混合気で容器内を満たし, スパークプラグを用いて容器の中心で火花点火した. 水素と空気の混合比は,分圧により調整した. 予混合気の初期圧力を大気圧(101.3 kPa), 未燃混合気の初期温度を室温(298 K)とし, 当量比φ = 1.0, 0.7, 0.5, 0.3において実験を実施した. また, 当量比に対応する乾燥空気に, 窒素を 0 vol% から50 vol% 添加し,混合気を希釈した. 各条件で実験を3回行い, 再現性を確認すると共に,各パラメータの平均値とエラーの程度を取得した. また,容器内の圧力変化を測定し,各実験条件下における最大圧力を取得した. 本研究で得られた成果は有用でかつ学術的にも価値があり,その成果を学会で公表している.これらのことから,本研究はおおむね順調に進展していると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
水素爆発現象の基本特性に関して,有用な知見を得ている.これらの知見をべースとして,今後は,実験で得られたデータを整理して,火炎伝播速度のモデリングを行い,実用化へ向けて検討する予定である.具体的には,火炎伝播速度Sbと火炎半径rbの関係に基づき,火炎伝播の加速現象のモデル化を行う.火炎半径rbが小さい領域では火炎面の曲率が大きく火炎伸長の影響を大きく受けるため,このことを考慮したモデル式(第一の式)を構築する. 一方, 火炎半径rbが大きい範囲では,火炎半径の増加に伴ってセル状火炎が発達し火炎伝播速度の加速が生じる.この火炎加速の特性を考察するために,セル状火炎による加速の項を追加し,火炎伝播加速モデルを表す式(第二の式)を構築する.ここで,火炎加速が開始する火炎半径を臨界火炎半径r0としている.火炎半径rbが臨界火炎半径r0より小さい領域には第一の式,臨界火炎半径r0より大きい領域には第二の式を適用する. 上記に加えて,火炎加速特性を検討する予定である.前述の第二の式を用いて, 各当量比における標準化した火炎加速係数と当量比や窒素希釈濃度の関係を明確にする.また,各当量比における標準化した火炎加速係数と窒素希釈濃度の関係を,アルゴン希釈,二酸化炭素希釈の場合と比較する.そして,窒素の濃度が増加するのに伴い,標準化した火炎加速係数がどの様に変化するかを定量的に同定し,そのメカニズムを考察する.特に,窒素希釈が拡散熱的不安定性を促進しているか否かを考察する.また,アルゴン希釈や二酸化炭素希釈の場合との違いを明確にし,その原因を探求する.これらは,水素安全対策のための基礎的な知見になるものである. 得られた研究成果は,学術雑誌等での公表や国内外の学会等での発表のみならず,インターネット上にも掲載し,広く社会に還元する予定である.
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