2022 Fiscal Year Research-status Report
シナプス素子に特化したシリコンナノ粒子膜の作製とニューラルネットワークへの応用
Project/Area Number |
22K04189
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
佐藤 井一 兵庫県立大学, 理学研究科, 助教 (90326299)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | リチウムイオン / ナノシリコン酸化物 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度として、シリコンナノコロイドを微細電極上に塗布し、シナプス素子としての電気的特性を調べた。当初の予定どおりのチオール修飾シリコンナノ粒子膜の測定に加えて、比較として水素終端シリコンナノ粒子膜、表面酸化膜のついたシリコンナノ粒子膜の測定を行った。試料にアルカリ金属イオンをドープすることで、電界内でイオンの移動を生じさせ、シナプス可塑性を顕著に生じさせようと試みたところ、表面酸化膜付きナノシリコン膜が、最も優れたシナプス可塑性を示すことが明らかになった。つまりアルカリ金属イオンドープされたナノシリコン酸化膜がシナプス素子として有望であることが示された。特にリチウムイオンをドープさせた場合、シナプス可塑性が顕著に現れた。ナノシリコン酸化膜内でのリチウムイオンの動きを調べるために、電圧印加前後での二次イオン質量分析を行った。その結果、電圧印加の方向に依存して膜内のリチウムイオン分布が変化していることが確認され、それがシナプス可塑性に影響を与えている可能性が示唆された。これまで半導体デバイスの分野では、シリコン酸化膜は電気絶縁性に優れた薄膜として使われてきたため、絶縁性を不安定にしてしまうアルカリ金属イオンの混入は避けるべきこととして特別な注意が施されてきた。本研究では、シリコン酸化物内でアルカリ金属が可動イオンとなる“欠点”を逆に“有用な機能”として利用できる可能性を示しており、新たなコンセプトのデバイスとして興味深い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究を行ったところ、チオール修飾「シリコンナノ粒子膜」よりもアルカリイオンドープ「ナノシリコン酸化膜」の方がシナプス可塑性が現れやすいことが確認された。これは、当初予想していた結果とは異なるが、デバイス構造や製造コストを考慮した応用面では好都合とも考えている。 以下、研究の具体的な状況について報告する。シリコンの酸化については、空気中での熱酸化により厚さ約10 nmの酸化膜を成長させた。得られたナノシリコン酸化膜にリチウムを混入させるためには、オートクレーブ内で加圧(0.2 MPa)された塩化リチウム水溶液内に試料を浸した。その後、メタノールで試料を洗浄し、電極を試料表面と基板に形成することで縦型の構造にして電気測定(シナプス可塑性、電流-電圧特性の評価)を行った。電圧刺激への応答に関しては、負の電圧信号が基板に加わると次第に抵抗値が上がり(電流が減少し)、正の電圧信号が加わると抵抗値が下がった(電流が増加した)。この結果と二次イオン質量分析結果とを合わせて考えると、膜内でのリチウムの分布が「電極との界面付近に偏った状態」から「膜内で広がった状態」の連続的な変化で、抵抗値の高低が連続的に変化すると解釈できた。また、正弦波電圧の印加による電流-電圧曲線は、原点の近くを通りながら、lobeを持つ非線形特性が確認された。これは、メモリスタ特有の抵抗値変化を示している。 得られた結果について、特許出願への検討を学内で行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
新たにシナプス素子として有望であることが示されたアルカリイオンドープナノシリコン酸化膜の作製条件の最適化を行う。具体的には、様々な酸化膜厚(1~10 nm)で様々な濃度のリチウムイオンドープを行い、シナプス素子に適した電流-電圧特性とシナプス可塑性を得る条件を探る。また、リチウム以外のアルカリ金属(ナトリウムとカリウム)で同様の実験をおこなう。これまで行った試験的な測定ではリチウムが最も良い特性を示しているが、作製条件次第では、ナトリウムなどでも同等の成果が得られるかもしれない。ナトリウムやカリウムで素子を作ることができれば、更なる材料費の削減が可能になり、応用面で重要である。 当初の計画では、シナプス素子の物質開発を行ってからニューロモルフィック回路を作製する予定であった。しかし、完全なシナプス素子の完成を待たずに、既存の能動素子を用いて、ニューロモルフィック回路を予め作成しておくことにする。シナプス素子の開発が進むにつれ、回路の該当箇所をシナプス素子に差し替えていき、シナプス素子・既存能動素子ハイブリッド回路を作製していく。これは、新たに大学院生1人と卒研生3人に研究協力者となってもらい、研究作業を分担することで取り組む。また、初年度からの研究協力者である東京工業高等専門学校電子工学科の一戸隆久教授は、引き続き、従来のシナプス素子材料で使われてきたチタン酸化物などの薄膜作製を行い、研究代表者のナノシリコン酸化膜との電気的性質の比較を行いたいと考えている。チタン酸化物とシリコン酸化物の互いの長所を生かし、短所を補うハイブリッドシナプス素子の形成の可能性についても引き続き検討する。
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Causes of Carryover |
(理由)当初予期していた実験結果が得られずに研究の進捗が少し遅れた。そのため、試料作製・評価に必要な物品費と学会などでの成果発表に必要な費用がかからなかった。また、年度の後半に成果の特許出願を検討することになり、これも学会発表を控える理由となった(2023年秋の学会発表は問題なく行う予定である)。 本研究を進める上で、新たに二次イオン質量分析によるアルカリ金属の濃度分布測定が必要であることがわかった。この分析に必要な費用は当初の予定に入っていない。今後、様々な条件で試料を作製する予定であり、次年度使用額をそれらの二次イオン質量分析の費用にあてたいと考えている。 (使用計画)次年度使用額は二次イオン質量分析測定に関する費用に当てる。
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