2022 Fiscal Year Research-status Report
真空紫外線照射を用いた超低磁気損失な磁性絶縁体の極微細パターン形成技術の開発
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22K04191
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
笠原 健司 福岡大学, 理学部, 助教 (00706864)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | マグノニック結晶 / スピン波 / イットリウム鉄ガーネット / 有機金属分解法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,スピン波の伝搬媒質として有名な超低磁気損失イットリウム鉄ガーネット(YIG)の高品質微細パターン形成手法である「電子線照射有機金属分解(EB-MOD)法」を発展させ,最新の紫外線露光技術を応用することで,生産性の大幅な向上を目指すものである.具体的には,電子線の代わりに真空紫外線(VUV)や極端紫外線(EUV)露光を用いて有機金属材料の有機基を分解することで,露光と現像,および熱処理工程のみで高品質なYIG微細パターンを得る予定である.初年度は世界的な半導体不足のため,真空紫外線の照射光源の入手が10月末まで遅れ,当初予定した計画通りに研究が行えなかった.そこで,装置が入手できるまでの間,従来のMOD法で作製したYIG薄膜を,フォトリソグラフィー法および熱リン酸によるウエットエッチングを用いて微細加工し,YIG中を伝搬するスピン波の測定を試みた.ベクトルネットワークアナライザと磁場印加可能な高周波プローバを用いて,電気的測定法として有名なアンテナ法によりスピン波を検出することに成功した.しかし,観測アンテナ間距離とスピン波の強度の関係から算出したMOD法で作製したYIG膜中を伝搬するスピン波の緩和長は,PLD法やLPE法で作製したYIG膜に比べて,1/20ぐらいと短く,YIG薄膜の品質を向上させる必要があることが判明した.そこで,作製条件(主に乾燥ベークと結晶化アニールの条件)を見直し,スピン波の緩和長に関係するパラーメータであるダンピング定数αを1/10まで下げることに成功した.今後は,この条件で作製したYIGを用いてスピン波の伝搬特性を調査するとともに,紫外線照射によるYIGパターンの作製も試みる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
世界的な半導体不足のために想定した機器の納品が大幅に遅れ,昨年度の2/3近くもの期間で予定していた研究に着手ができなかった.一方で,従来のMOD法で作製したYIG薄膜におけるスピン波の伝搬特性は,ごく最近になって一斉歳差モードである強磁性共鳴の特性が報告されるようになってきたものの,伝搬性のスピン波については報告がなかった.このような背景のもと,真空紫外線照射装置が入手できるまでの間,まずは従来のMOD法で作製したYIG薄膜におけるスピン波の伝搬特性について調査を行なった.従来のMOD法を用いて作製したYIG薄膜を,フォトリソグラフィー法および熱リン酸によるウエットエッチング法を用いて微細加工し,スピン波測定用の素子を作製した.この素子と,ベクトルネットワークアナライザおよび磁場印加可能な高周波プローバを用いて,電気的測定法として有名なアンテナ法でスピン波を検出することに成功した.しかし,観測アンテナ間距離とスピン波の強度の関係から算出したスピン波の緩和長は,PLD法やLPE法で作製したYIG膜に比べて,1/20程度と非常に短いことが判明した.周期構造を導入したマグノニック結晶では,周期構造のない薄膜に比べて,スピン波の群速度が小さくなるため,その強度は半分程度に小さくなることが知られており,このままでは紫外線照射を用いたYIGマグノニック結晶の形成がうまくいっても,それを伝搬するスピン波の検出は困難であると考えられる.そこで次に,YIG薄膜の品質を向上させる作製条件の探索を試みた.作製条件のうち,乾燥ベークと結晶化アニールの条件を主に見直し,スピン波の緩和長に関係するパラーメータであるダンピング定数αを1/10まで下げることに成功した.今後は,この条件で作製したYIGを用いてスピン波の伝搬特性を調査するとともに,紫外線照射によるYIGパターンの作製も試みる予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
研究代表者が福岡大学から近畿大学に異動したため,まずは実験装置の立ち上げとYIGの成膜条件の再現性を確かめる実験が最初の課題となる.成膜したYIGの動的磁気特性は,強磁性共鳴法およびスピン波の伝搬特性から評価する.結晶学的特性については,同大学の福岡キャンパス内には詳細に評価できるX線回折装置がないので,前所属である福岡大学の装置を利用して評価する予定である.その後,真空紫外線照射によるYIGパターン形成を試みる.動的磁気特性と結晶学的特性については無構造のYIG薄膜と同様であるが,形状については段差計や原子間力顕微鏡を用いて評価する.真空紫外線の照射量とYIGパターンの形状の関係を調べ,空間的に真空紫外線の照射量を変調させることで複雑な3次元構造を持ったYIGパターンの形成を試みる.形状や結晶学的特性を確かめたのち,スピン波の伝搬特性をベクトルネットワークアナライザと高周波プローバを用いて評価し,構造の周期性に対応した周波数でのスピン波の遮断を観測することで,マグノニック結晶の形成を確認する.また,従来のMOD法で作製したYIG薄膜を微細加工して作製したマグノニック結晶の特性と比較することによって,紫外線照射MOD法で作製したマグノニック結晶の優位性も確認する.
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Causes of Carryover |
世界的な半導体不足により,当初予定していた装置の納品が遅れ,計画通りに研究が開始できなかったことに加え,購入を予定していた別の装置も昨年度中の納品が難しく,その装置を翌年度に繰り越して購入することにしたため.
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