2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
22K04215
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
小野島 紀夫 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (40500195)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 有機トランジスタ / 有機不揮発性メモリ / プリンテッドエレクトロニクス / 低環境負荷 / 低分子/ポリマーブレンド / 静電スプレー堆積 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題では新型コロナウイルスの蔓延をうけ,非接触で人やモノを検知できるセンサや無線情報タグに応用するための有機不揮発性メモリを作製することを目的にしている.さらに,我々がこれまでに確立している技術“グリーンプリンテッドエレクトロニクス”を拡張し,高度に発達しているシリコン半導体デバイス技術と融合して,有機半導体デバイス技術の基盤構築を目指している.2022年度の研究実績として次の3点を挙げる. (1) 素子分離に向けた印刷によるCYTOP絶縁膜のパターニング堆積 (2) 親撥処理による有機トランジスタの性能向上および特性均一化 (3) コンタクトドーピングによるキャリア注入効率の向上 我々は,ロール・ツー・ロール工程への適用が可能な静電スプレー堆積という印刷法を用いている.この方法では,真空蒸着のようなシャドーマスクを用いた選択的な膜形成が可能である.また,低分子半導体と絶縁性ポリマーをブレンドし,垂直方向相分離により1ステップで高性能な有機トランジスタを作製している.しかし,有機半導体デバイス技術は未成熟であり,個々の素子が分離されていない.一方,シリコンでは素子分離用の酸化膜形成が確立されている.そこで,撥液性のフッ素系高分子(CYTOP)をパターニング堆積して素子分離を行った.また,CYTOPを用いた親撥処理により有機トランジスタの性能向上および特性均一化に成功した.さらに,シリコンではコンタクト電極下にドナーまたはアクセプタ不純物を選択的に高濃度ドーピング(コンタクトドーピング)するが,有機半導体ではキャリアの移動する分子軌道エネルギーに近い高仕事関数のAuなどの貴金属が用いられている.本研究では,MoO3を用いてコンタクトドーピングすることでキャリア注入効率が大幅に向上されることを見出し,AlやCuなどのコンタクト電極を用いてレアメタルフリーな低コストプロセスを実現した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの進捗状況は,おおむね研究計画どおりに順調に進んでいる. 本研究では当初,低分子半導体としてTIPS pentaceneを用いることを計画していた.この理由は,低環境負荷なグリーン溶媒を用いた静電スプレー堆積による低分子/ポリマーブレンド膜の形成および垂直方向相分離により1ステップの成膜プロセスで高性能な有機トランジスタを作製できる実績があったためである. 2022年度の研究において,結晶性の連続膜を形成できて電気的特性の優れた液晶分子Ph-BTBT-10を用いて低分子/ポリマーブレンド膜を作製し,TIPS pentaceneよりも良好なトランジスタ特性を得ることに成功した.さらに,Ph-BTBT-10結晶の初期成長過程をくわしく調べた結果,GaAsなどの化合物半導体ヘテロエピタキシャル成長で知られているStranski-Krastanov(S-K)モード,すなわち2次元の膜状成長から3次元の島状成長に結晶成長の様式が移行することを明らかにした.また,成長初期に2次元的に膜が形成されるのは,一般的な結晶成長理論(ステップフローや2次元核生成)ではなく,リオトロピック液晶ならではの分子配向能によることがわかった.これらの研究成果は,現在,学術論文に投稿している. 2023年度の研究では,低環境負荷な印刷プロセスでPh-BTBT-10/ポリマーブレンド膜を作製し,強誘電体ポリマーを用いた有機不揮発性メモリを作製する.また,Ph-BTBT-10を用いたポリマーブレンドトランジスタにおいてもMoO3を用いたコンタクトドーピングによるキャリア注入効率の向上が可能であるか検証する.また,MoO3によるコンタクトドーピングのメカニズムを解明して学理を構築し,有機半導体ならではのデバイス技術を開発する.
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度の研究では以下の4点に取り組む. (1) 低環境負荷なグリーン溶媒を用いた静電スプレー堆積によるPh-BTBT-10/ポリマーブレンド膜の形成 (2) Ph-BTBT-10を用いた有機強誘電体メモリ(FeRAM)の開発 (3) MoO3によるコンタクトドーピング技術の学理構築 (4) 有機不揮発性メモリ(ReRAM)を用いたアナログ抵抗変化素子の開発とAIエレクトロニクスへの応用 (1)(2)に関して,我々が用いている静電スプレー堆積法は微細液滴を噴霧して膜形成するプロセスである.そのため,着滴する前に溶媒が蒸発するので溶質濃度の低い溶液を使用可能な材料利用効率に優れた印刷技術である.これにより,溶解度の低い低環境負荷なエステルやアセトンなどのハロゲンフリーで非芳香族のグリーン溶媒を使用できる.現在,インクジェット法などに用いる溶質濃度の1/100以下の低環境負荷な溶液を作製して,Ph-BTBT-10/ポリマーブレンド膜の堆積を試みている.また,有機半導体の膜厚を小さくすることで有機トランジスタの寄生抵抗が減少してトランジスタ特性が向上するので,デバイス構造を検討して高性能なFeRAMの開発を目指す.(3)に関して,我々はMoO3を堆積することで有機半導体の分子間に電荷移動準位が形成される電荷移動ドーピングによりキャリア伝導度が増加することを報告している.そこで本研究では,電荷移動ドーピングによるコンタクト形成のメカニズム解明・学理構築を目指す.(4)に関して,我々はエレクトロニックポリマーを用いたReRAMの作製に成功しており,データ保持特性や耐久性などの評価をしている.今年度の研究ではデジタルではないアナログデータの記憶が可能なメモリスタの作製を目指す.これは脳神経回路のシナプス素子の機能を模倣したAIエレクトロニクスへの展開が期待できる.
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Causes of Carryover |
2022年度予算の残りを2023年度に繰り越した理由は,科研費の効率的な利用のためである.とくに,当初の研究計画では予算を計上していなかった「有機不揮発性メモリ(ReRAM)を用いたアナログ抵抗変化素子の開発とAIエレクトロニクスへの応用」の研究を行うための実験器具類の購入を考えている. 現在のノイマン型コンピューティングは高精度な高速データ処理が可能であるが,消費電力が非常に大きいという問題がある.それに対し,脳神経の情報伝達を模倣したAIコンピューティングは機械学習により正確性の向上ができ,高速な並列演算が可能で消費電力が極めて少ないという特長がある.本研究で開発する非接触なスマートセンサやIoTデバイスでは,このような低消費電力化が重要であるため,本研究の課題内容と合っている.
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