2022 Fiscal Year Research-status Report
電流印加によるナノカーボンの構造変化と抵抗変化の関係解明
Project/Area Number |
22K04222
|
Research Institution | Shibaura Institute of Technology |
Principal Investigator |
上野 和良 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (10433765)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | ナノカーボン / 結合状態変化 / 抵抗変化 / ダイヤモンド結合 / グラファイト結合 / 電流印加 / 抵抗変化型メモリ / ラマン分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
電流による物質の物性変化は、電流による抵抗変化を用いた抵抗変化型メモリ(ReRAM)などに応用されている。炭素膜を抵抗変化層に用いたReRAMでは、絶縁性のダイヤモンドを構成するsp3結合の炭素と、導電性のグラファイトを構成するsp2結合の炭素の割合が変化することで抵抗変化が生じると考えられているが、電流によるsp3-sp2構造変化が生じるかどうかを直接的に観察した例はあまり報告されていない。本研究では、電流による構造変化の直接観察を行うために、試料作製や観察の方法を検討する。 初年度の2022年度は、2種類の試料作製方法を検討した。第1の方法では1㎝×3cmにカットした酸化膜付きSi基板上に非晶質炭素(a-C)膜と銅(Cu)の積層膜を堆積し、試料の両端に電極膜をつけて、電流を面内方向に流すようにした。第2の方法では、観察する抵抗変化の場所が特定しやすいように、フォトリソグラフィーによるパターニングと、斜め蒸着によるシャドー効果により形成したナノギャップ間にa-C膜を形成し、局所的に面内方向の電流を流す試料を作製した。試作の結果、150nmのギャップが形成できた。 また第1の方法で作製した試料に7A以上の電流を流した時に、Cu膜に破断が生じ、破断箇所近傍のa-C膜の構造を、X線光電子分光(XPS)とラマン分光で分析した。その結果、電流印加後にa-C中のsp2結合が増加していることがわかった。この結果は、a-Cの構造変化がXPSやラマン分光により観察できることと、電流印加に伴う構造変化の可能性を示している。ただし第1の方法の試料では、電流が主に低抵抗のCu層を流れていると考えられ、熱により生じた変化の可能性もあるため、a-C中の電流による構造変化と特定することはできない。第2のナノギャップ試料では、a-C層のみに局所的に電流を印加できるため、電流効果の特定が今後期待できる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の2022年度は、電流によるa-Cの構造変化を観察するための2種類の試料作製法を試し、1つ目の比較的簡便な方法では、電流印加に伴うa-C構造変化を、XPSおよびラマン分光法で観察することができた。 また、2つ目のナノギャップ試料の作製プロセスを構築し、まだギャップ幅が広めであるものの、試料作製の目途が得られた。当初に検討予定であった表面増強ラマン分光を応用した局所的な結合状態の観察については検討が遅れているが、ナノギャップ試料で構造変化の観察が可能となれば必要がなくなるため、全体としてはおおむね順調に進展していると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
ナノギャップ試料を用いて、a-C膜への電流印加による抵抗変化を観測し、抵抗変化前後の炭素の結合状態がナノギャップ近傍でラマン分光法で観察できるかを調べる。観察が難しい場合には、ナノギャップの間隔を狭くするなどの試料作製の改善や、表面増強ラマン分光のためのAuナノドットの導入など、試料構造、観察方法の工夫を行う。また、2022年度に観察されたa-C/Cu試料のCu破断箇所近傍のsp2結合割合が増加した現象について、電流密度、温度、試料構造(膜厚比)などを変化させて、観察されたsp3-sp2構造変化への熱(温度)や電流の作用・効果について検討する。さらに、高抵抗で電流が流れにくいa-Cの他に、より電流の流れやすいと考えられる多層グラフェン膜を固相析出法で形成し、電流印加実験を行う計画である。
|
Causes of Carryover |
初年度の2022年度は、試料作製方法や観察方法の可能性について、試作を中心にした実験を行ったため、研究室で共用するスパッタターゲット、基板、薬品等により実施でき、本研究の実験のために新たに資材を購入する必要が生じなかった。試料作製方法がおおむね確立し研究が本格化する次年度には、実験のために必要な資材を購入する必要があり、スパッタターゲット、基板、薬品、電気部品、ガラス器具等の購入に使用する予定である。また、今年度は学会発表ができなかったが、次年度は学会発表を予定しており、その際の旅費に使用する計画である。
|