2023 Fiscal Year Research-status Report
不飽和ベントナイトの水分浸透モニタリングを目的とした光音響トモグラフィー
Project/Area Number |
22K04289
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
木本 和志 岡山大学, 環境生命自然科学学域, 准教授 (30323827)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 光音響法 / 超音波 / 不飽和粘土 / モンモリロナイト |
Outline of Annual Research Achievements |
R5年度の研究では,(1) 実験に使用するNd:YAGレーザの仕様決定と導入,(2)光音響法による超音波測定系の構築,(3)粘土試料を使った予備実験を行った.Nd:YAGレーザは,光音響測定においてコアとなる装置だが,当初の見込みより大幅な価格高騰があり導入が遅れていた.しかしながら,R5年度前半に適切な仕様を再度検討し,年内に装置の導入と稼働を実現することができた.R5年度の研究で構築したNd:YAGレーザを中心とする光音響法の測定系は,粘土試料を保持して劣化を防ぐためのセルと,試料を透過した超音波の検出に用いる受信センサー,これらの相対位置を調整するためのジグおよびステージで構成される.受信には圧電センサーとレーザ振動系のいずれを用いることもでき,両者の測定結果を比較することも可能となっている.R5年度は,上記の測定系と締め固めた粘土試料を用い,光音響法での超音波測定を試行した.実験に用いた粘土試料は,モンモリロナイトを純水と混錬して締め固め,所定の乾燥密度と含水比となるようにしたもので,これまで光音響法による超音波測定が行われた事例は無い.そこで,適切な照射方法を見極めるための予備実験を行い,光音響効果による超音波発生の確認,適切な照射距離の設定,繰り返し照射時に必要な試料保護の方法について検討した.以上の結果,R6年度に予定している,試料の水分量とかさ密度を変化せた,体系的な測定のための条件設定を行うことができた.なお,その実験には一部既に着手しており,含水比一定のもと,密度の異なる9体の試料で超音波速度測定を行っている.結果は圧電センサーを用いた従来の透過法と概ね一致し,光音響測定の信頼性に問題は無いことが分かった.また,密度と超音波速度の間に相関がみられ,不飽和粘土試料の吸水膨潤に関するその場モニタリングに,光音響法が有望であることも確認できた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では,研究初年度であるR4年に,Nd:YAGレーザの購入と測定系の構築を行い,R5年度は光音響法による超音波測定を年度初頭から開始する予定としていた.しかしながら,R4年度時点で,円安と半導体不足の影響があり,予算申請時に購入を予定していた装置の価格が高騰し,新規購入する装置を再考する必要が生じた.そこで,初年度予算をR5年度へ繰り越し,R4年度は,光音響法の比較対象とすべく,従来の超音波透過法によるデータ収集を行った.ただし,その間,本研究の目的と予算規模に合うレーザ装置について再度調査を行い,翌R5年6月にはNd:YAGレーザの仕様決定と製品の選定を,同年9月には購入契約を行い,12月末に納品の運びとなった.このような経緯から,光音響法による超音波測定系に関する諸条件の具体的検討に着手できたのはR5年6月となった.しかしながら,12月の納品までの期間に,粘土試料の保持および保護方法,ワークの位置決めとジグの設計について準備を進め,Nd:YAGレーザの納品後,速やかに実験に取り掛かることができた.実験開始後は,当初懸念された粘土試料によるレーザ吸光量の問題もなく,不飽和粘土試料を用いて光音響効果による超音波発生を確認することができた.また,超音波の送受信に圧電センサーを用いる従来法との比較でも概ね一致する結果が得られ,光音響法による測定の妥当性も確認できた.以上のことから,装置導入の遅延による研究の遅れは,R5年末でほぼ取り戻しつつある.今後,研究の遅れを完全に取り戻すためには,粘土試料の水分と密度を変化させた系統的な測定を効率的に実施することが必要となる.そのため,試料作製の効率化に向けた方策ついてR5年度時点で検討を始めており,最終年度であるR6年度末までには,概ね当初計画にある研究項目を実施できるよう準備を進めている.
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Strategy for Future Research Activity |
水分量と密度が正確に規定された不飽和粘土試料を作成することは,一連の実験において最も時間を要する作業となっている.とりわけ,水分と密度を変化させた系統的な測定には多数の粘土試料が必要とされ,試料作製の効率化が重要である.試料作成工程の中でも特に手間と時間を要する部分は,所定の含水比となるよう水分と乾燥粘土を正確に計量して混錬する作業と,それを少量ずつモールドに投入してつき固める作業である.これらの作業効率を改善するため,R6年度は,温度および相対湿度を正確に制御することのできるチャンバーを作成し,締固め前後で試料の水分量調整に用いることを計画している.この方法では,チャンバーの湿度と温度を変化させるだけで,所定の水分量を持つ不飽和粘土試料を作成でき,計量と混錬に関する効率の問題はほぼ解消される.さらに,超音波測定後の試料を体積拘束してチャンバー内で緩和することで,同一乾燥密度の試料を,所定の水分量へ連続的に変化させることができる.これは,一つの試料を繰り返し使用しながら,水分量を変えた計測が可能となることを意味し,実験の効率化に大きく寄与する.勿論,このような方策が実現できた場合も,試料作製には一定の手作業が必要とされる.この点については,研究補助者の協力を得て,複数人で作業する計画としている.そのために,研究補助者の試料作成トレーニングと並行して作業に必要となる試料セルや器具の準備にも着手している.また,研究補助者が試料作成を行っている間,研究代表者は,不飽和浸透試験の光音響超音波測定に従事することができる.この実験のためには,過去に使用したX線測定用の不飽和浸透試験セルを改良して用いることができ,他の試料作成や測定準備と独立して進めることができる.以上により,残された期間で,体系的かつ効率的な光音響超音波測定を実施する.
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Causes of Carryover |
R5年度に購入予定であった光学系消耗品の一部が,レーザの強度が十分であることが判明した結果不要となった.一方,実験試料作成の効率化のために,当初計画には無かった,温湿度制御チャンバーの作成が必要であることが,R5年度の研究途上で判明した.このことから,一部予算を繰越し,R6年度に行う温湿度制御チャンバーの作成費用に繰越金を充当することとした.
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Research Products
(1 results)