2022 Fiscal Year Research-status Report
DNA情報に基づく水生昆虫の流域内多様性評価手法の構築と流域管理への応用
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22K04374
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
八重樫 咲子 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (30756648)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大槻 順朗 山梨大学, 大学院総合研究部, 助教 (10618507)
渡辺 幸三 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 教授 (80634435)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 底生動物 / DNAバーコーディング |
Outline of Annual Research Achievements |
河川環境の保全を目的として,河川水辺の国勢調査や環境影響評価などで河川流域の水生昆虫のモニタリング調査が全国で実施されている.この調査では,サンプリングネットなどを用いて生息する底生動物を採集し,その形態を1個体ずつ確認することで種の同定を行っている.しかしこの手法では大量の標本を分析する労力とその人件費(例:調査地点あたり数十から数百の標本数)などの問題点や,若齢個体や劣化個体など同定困難な標本の存在などから,大量のデータを収集することや正確な水生昆虫相の解明が難しい.これを受けて近年,DNAを利用した種同定手法であるDNAバーコーディングが注目されている.この手法は既存のDNA配列と得られた未知の生物由来のDNA配列を比較し,その一致状況から種名を判別する手法である.しかし,日本産水生昆虫ではDNAバンクへのDNA登録データ数が少ないこと,種内分化が大きく同種であっても登録配列とは低い一致率を見せる場合があることが問題となる. そこで本研究ではDNA分析を用いた水生昆虫多様性調査のため,水生昆虫のDNAデータベースを拡充し,効果的なDNAメタバーコーディングによる流水生水生昆虫の網羅的種多様性解析手法を整備し,DNA分析に基づく水生昆虫多様性データを利用して河川流域の水生昆虫多様性を高める流域管理方法を明らかにすることを目的としている.これまでに,次世代DNAシーケンサー(NGS)のDNA大量解読技術を利用した水生昆虫の流域内DNAデータベースの整備をおこなった.その結果,NGSからは従来のサンガー法を利用した方法と比べて遜色ないデータが得られた.また,ここで得られたDNAデータベースを利用してさまざまな個体由来の混合DNAのDNAバーコーディングを行ったところ,既存国際DNAデータベースを利用したバーコーディングを行うよりも,高い一致率を持つ配列が多く得られた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
R4年度は,山梨県内の河川に生息する流水性水生昆虫(カゲロウ・カワゲラ・トビケラ)を対象として水生昆虫のDNAデータベースを構築することを目的としていた.これまでに富士川流域の山間部から盆地内まで多くの地点で水生昆虫を収集した.また,次世代DNAシーケンサーを利用して,昆虫を識別するDNAタグを付与することで,多くの水生昆虫のDNAバーコーディングによく用いられるCOI領域や16S rRNA領域の解読を行うことができた.この手法で得られた塩基配列は従来型の解読方法と同等のクオリティが得られた.ここで得られたDNAデータベースが群集DNAのバーコーディングに利用可能であることを確認できた.従って,R4年度に本研究で行う予定であった研究内容は概ね達成できたと言える.
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Strategy for Future Research Activity |
R5年度はR4年度に行なったDNAデータベースの拡充を,まだDNA配列を解読していない分類群を対象として引き続き行う.また,得られたDNA塩基配列のデータを用いて,同種内個体間および同属内種間,同科内属間の塩基一致率を算出することで,解析領域間の種間差異の検出力を明らかにする.そして,水生昆虫のDNAバーコーディンで種の判定を行う際に利用する,データベース配列との一致率を検討する.
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Causes of Carryover |
感染症対策に伴い一部の調査や実験活動などが縮小したこと,および一部の学会がオンライン化し,出張旅費が不要となったことで次年度使用額が生じた.これらは令和4年度から継続している研究内容の消耗品および解析費用として利用する.
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Research Products
(10 results)