2022 Fiscal Year Research-status Report
建築物周辺に障害物がある場合の津波荷重メカニズムの解明
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22K04412
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Research Institution | Akita Prefectural University |
Principal Investigator |
小幡 昭彦 秋田県立大学, システム科学技術学部, 助教 (30433147)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
寺本 尚史 秋田工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (00315631)
高舘 祐貴 国立研究開発法人建築研究所, 構造研究グループ, 研究員 (20848311)
丁 威 秋田工業高等専門学校, その他部局等, 講師 (70901768)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 津波荷重 / 連棟配置 / 津波圧力 / 水理実験 / 数値流体解析 / 定常流 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、建築構造物周辺に障害物がある場合の津波の流れ場とそれによって生ずる波力が建築物に作用するメカニズムを解明することである。建築構造物は海岸工学分野の構造物と異なり、周辺に同等もしくはそれ以上の規模の構造物が存在することが一般的である。周辺環境による津波の流れの変化は当然存在するはずであるが、この視点は日本建築学会の「建築物荷重指針・同解説(2015)」には含まれていない。津波の流れ場に障害物となるような構造物が存在した場合、津波被害が軽減されることは先の震災による被害調査からも明らかとなっており、周辺環境が津波荷重に影響を及ぼすことへの検討が建築構造物の耐津波設計法には必要である。そのような問題について本研究では、水理実験並びに数値流体解析により、建物群に作用する津波波圧・波力の特性を明らかにするとともに、波力が建築物に作用するメカニズムを解明し合理的な対津波設計を確立する上での基礎的知見を得ることを目的とする。 研究代表者らはこれまで、水上側に障害物が存在する場合のダム崩壊型の水理実験並びに数値流体解析を行い、津波波力を観察してきた。ただし、ダム崩壊型の実験および数値流体解析は時刻毎に流れが変化するため、フルード数の変化が津波波力に及ぼす影響について考慮が必要になる。フルード数は、定常流中の構造物に作用する抗力に影響を及ぼすことが既往の研究より明らかとなっており、時刻毎にフルード数が変化する流れ場においてその影響を追跡するのは容易ではない。そこで、令和4年度の研究では、フルード数の変化しない流れ場での基本的な性状の把握を目的とし、定常流下での水理実験、数値流体解析を行った。定常流下における水理実験、数値流体解析は初めての試みであるため、実験および解析方法の検討から始め、実際に実験室、計算シミュレーションにより定常流を再現した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和4年度の研究では、定常流下での水理実験、数値流体解析方法の検討を行った。年度後半に研究代表者が病を患ったため研究を遂行できない期間があり、基礎的な実験および数値流体解析を行うに留まった。 定常流を再現する水理実験は秋田工業高等専門学校が所有する実験水路を利用した。貯水槽のすぐ外側に、既存の遮水壁とは別に自作の遮水板を一定の高さを開けた状態で固定した。長時間の定常流を作用させるために、貯水槽には一定量の水を汲み上げて流量が一定になるように制御した。遮水板より上流側に汲み上げる貯水高さを一定に保つことで定常流を生成した。貯水高さを変化させると水深は大きくなるものの、流速はやや低くなるため、時間平均したフルード数の大きさは貯水高さによらず約0.7となり、大きく変化させることはできなかった。フルード数を変数とした実験は今後の検討課題である。 また、一方で数値流体解析においては、流体解析ツールボックスOpenFoamの使用を試みた。まず、初期条件で計算領域全域に一定の数位で水を溜め、その後、流入側境界面の境界条件を一定流入と定義することで、定常流を再現する。計算開始当初は強制的に流入をおこなうため計算が安定しない時間帯が存在するが、時間ステップを徐々に進めることにより一定の流れが再現された。試行的な解析であったため、領域の格子分割が粗く建物表面での圧力分布の再現性については改善の余地があるが、現時点では定常流れの再現については可能性を示した。 以上より、現在までの研究の進捗状況について、当初最低限の目的とした実験および数値流体解析での定常流の再現はできている。ただし、年度後半に確証実験、解析を行えなかった影響で、現時点で水理実験、数値流体解析ともに課題が多い。以上より、本研究の進捗状況はやや遅れていると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度は引き続き水路実験、数値流体解析を行う。水理実験では、令和4年度は一棟のみの実験で定常流の再現を目的とし対象構造物を一棟のみに限定していたが、令和5年度は対象とする建物件数を2体とし、建物群の中での津波の流れ、建物に作用する波力、波圧の性状把握を目的とする。配置計画について、建築構造物群の配置計画は無限に存在するため、遮蔽となる場合、水の通り道が存在する場合などの代表的なケースを想定した実験を行う予定である。また、令和4年度で課題となったフルード数を実験変数に加える実験を行う。具体的には、実験水路内に越流堰を設置し、堰を超えて生じた流れによる射流を生成し、射流条件下での実験を行う。射流条件下での模型実験は事例がほとんどないため、単純な模型配置パターンを試すことで確認を行う。 数値流体解析では、研究計画にあった後方流れの性状に着目する。障害物となる建築物の背面流れの水位は、津波が障害物を迂回して進行することにより高い部分と低い部分に分かれる。この断面において流速が局所的に大きく変化しないと仮定すると、津波力の大小はこの水位の影響を大きく受ける。水位の低い部分に建つ構造物は受ける津波力が小さく、水位の高い部分に建つ構造物は津波力が大きくなる。本研究では、この水位差のメカニズムを追うことが重要となる。令和5年度は定常流を対象とした数値流体解析でこの水位の傾向を追う事を目的とするが、水位の傾向把握にはさらに細かな格子分割が必要となる。長時間の解析が必要になるため、計画的に行う。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じている理由について、令和4年度は、年度後半に研究代表者が病を患ったため、計画されていた一部の実験および数値流体解析が行われなかった。そのため、計画されていた実験に用いる費用の一部が次年度に持ち越される。令和5年度は、その遅れている実験および数値流体解析の一部と計画されていた分の実験を引き続き行う予定である。
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