2022 Fiscal Year Research-status Report
A study on the acoustic design of learning spaces in schools and pre-schools
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22K04430
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
川井 敬二 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 教授 (90284744)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
菊池 哲平 熊本大学, 大学院教育学研究科, 教授 (70515460)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 建築環境 / 音環境 / 学校施設 / 保育施設 / 室内音響計画 / 吸音 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、幼稚園・保育所、小学校を対象とした、子どものための音環境設計の社会への普及を目的としており、欧米をはじめとする他国に比べてそれが普及していないわが国の現状を背景として、2つの研究課題を掲げた。その課題ごとに実績の概要を述べる。 ① 初等教育施設における音環境の現状と問題の把握: これについて、主に教室・保育室の吸音仕上げに着目し、熊本市教育委員会の協力を得て16校の視察を、熊本市幼稚園・認定こども園協会の協力を得て7園の視察を行った。結果として、小学校の教室については1校のみ、幼稚園は2園(うち1園は一部のみ)に吸音仕上げが採用されていたという、室の設計において吸音の考慮が普及していない現状が明らかとなった。また、また、教員へのアンケート調査により、グループ学習など、吸音による聞き取りやすさ(音声明瞭性)の確保が求められる活動が日常的に行われていることが示された。これは、従来の教師による一斉授業を想定した音環境設計よりも、明瞭性において上質な空間が求められることを意味する。次年度は他の自治体を対象に実地調査を継続する予定である。実地調査に加えて、学校環境衛生基準や学校施設整備指針等、国の基準や指針のレビューを通して、現在の行政的施策の全体を把握した。 ② 良好な音環境が学習や快適性に及ぼす効果の把握: 一つの幼稚園の協力を得て吸音材を仮設する長期間の現場実験を実施し、園児の歌の唱和が揃う度合いや、唱和の発声音量に対する室内吸音の効果について検証を行った結果、吸音のない条件で唱和が揃わない傾向や、発声が大きくなりがちな傾向が示された。また、音に敏感な子どもが多い特別支援教育の場を想定し、マスキング音の付加による周囲雑音の影響の低減の可能性を検証するために、実験室実験を開始した。次年度もこれらの実験的研究を継続する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
R4年度の計画は①初等教育施設における音環境の現状と問題の把握、②良好な音環境が学習や快適性に及ぼす効果の把握という2項目から成る。 ①に関して熊本市内の幼稚園7園、小学校16校を対象に視察とアンケート調査を実施し、結果として、吸音が考慮されていない現状とともに、子ども同士の同時会話が想定されるグループ学習が広く実践され、従来以上に教室における音声明瞭性が求められる状況が示された。コロナ禍を主な理由として調査の規模を縮小したが、幼稚園は調査の拡大が望まれる一方、小学校は教育委員会が教育・施設整備を統括していることから、熊本市では全体的に同様の状況が想定されるため、当初の目的は概ね達成したと考えられる。また、下記のように目標②の実験の実施が困難となったため、計画を見直し、行政的施策の現状の全体的な把握を研究課題とした。これについて、概要でも述べたように、国の基準や指針について、初回の刊行・公布から最新版までを国会図書館や文部科学省等から入手し、その成り立ちから改定について社会や政策的な経緯をレビューし、国としての音環境整備の枠組みの全体像を把握した。 ②に関しては、一幼稚園において約半年間、吸音条件を変化させた詳細な現場実験、および音に敏感な子どもを想定したサウンドマスキングの効果についての実験室実験を実施した。一方で、小学校でのインクルーシブ学習を対象とした現場実験、幼稚園での「落ち着ける小空間」の設置実験は、コロナ禍の影響を受け実施に至らなかった。後者についてはコロナ対応の緩和を想定し、超音波センサを使って利用状況を自動記録する機材整備をはじめ、具体化の準備を進めている。 以上、新たな成果も得られたが、実験を通した検証はR5年度に持ち越しが生じたため、やや遅れていると評価した。この他、保育学会等での研究発表や幼保施設向け雑誌の解説記事などを通して、保育現場への情報発信を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
①初等教育施設における音環境の現状と問題の把握、②良好な音環境が学習や快適性に及ぼす効果の把握に関して、以下の計画をしている。 ①については、熊本市以外の自治体を調査し、自治体間の比較検討を新たな研究課題として取り上げる。具体的には、近隣の自治体の実地調査とともに、小学校施設の整備指針を設けている自治体の資料を収集し、わが国の音環境設計の現状を俯瞰できる成果資料の作成を目標とする。幼稚園・保育所についても、R4年度の日本保育学会大会での発表をきっかけに福岡、和歌山の保育関係者が音環境整備への取り組みを開始しており、その地域での音環境設計の現状把握を本年度以降進める予定である。 ②については、一幼稚園の協力を得て「落ち着ける小空間」の設置実験を進めるほか、R4年度に現場実験を実施した園で、本年度新入園した園児のクラスを対象に、園への慣れや食事の挨拶などの習得が吸音材の仮設により変化するかどうかなど、新たな視点の実験も進める。小学校でのグループ学習・インクルーシブ学習への吸音の効果(音声明瞭性、雑音の低減)の検証実験についても、協力の得られる小学校において実施を計画している。現場実験と並行して、サウンドマスキングなど、音環境の改善に関する手法の有効性について、実験室実験により検証を進める。 また、R4年度に得られた成果について、国際騒音制御工学会議(Internoise2023)や日本音響学会研究発表会など国際・国内会議で発表する。
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Causes of Carryover |
主な理由は、参加した2つの国際会議がオンライン参加となり、計上していた旅費を使用しなかったことにある。これについては、本年度に新たに設定した課題である他の自治体の調査や、音環境整備の普及に向けたパンフレット等の制作に有効に活用し、さらに本年度に持ち越しとなった現場実験の記録用機材や記録媒体の購入等に充当する予定である。
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Research Products
(7 results)
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[Book] げ・ん・き2023
Author(s)
川井敬二
Total Pages
126
Publisher
エイデル研究所
ISBN
9784871686907