2022 Fiscal Year Research-status Report
Understanding the characteristics and use of low-emissivity interior surface materials to improve thermal comfort and energy-saving performance of radiant heating and cooling systems
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22K04439
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Research Institution | Aichi Shukutoku University |
Principal Investigator |
淺田 秀男 愛知淑徳大学, 創造表現学部, 教授 (20339120)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
胡 致維 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (70760411)
山田 保誠 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 研究グループ長 (90358268)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 放射冷房 / 内装材 / 低放射率 / 高反射率 / 温熱環境 / 熱放射 / 快適性 |
Outline of Annual Research Achievements |
放射冷暖房は、エアコン等の対流式冷暖房と比べてより高い快適性を得ることができる。ただし、そのためには室内の長波長放射(以下、熱放射)の熱伝達が効率的に行なわれるようにすることが重要である。その方法としてこれまでは断熱材による高断熱化が唯一の方法であったが、共同研究者(胡、山田)により新たな建築内装素材が別途開発中である。これは長波長放射に対する放射率が低い内装材であり、これを用いることで室内空間における放射伝達の流れを変えて熱放射環境を調整することが可能となる。本研究は、室内表面を低放射率化した空間において放射及び対流式の冷暖房を行なうことで創出される室内環境の温熱物理量の特長と快適性向上効果、従来内装の空間と比べた場合の冷暖房用エネルギー消費量削減の効果を定量的に明らかにし、低放射率内装材の有効性を示すとともに効率的で適切な利用方法について検討することを目的とする。 初年度(令和4年度)は、低放射率室の温熱環境的特徴を温熱環境シミュレーションで詳細な解析ができるように、まず、低放射率室における放射熱伝達解析手法を詳細に整理・検討した。これは、一般的に用いられている放射熱伝達計算とそれに基づく平均放射温度は、表面の長波長放射率が約0.9、つまりほぼ全ての熱放射は反射することなく吸収されて再放射されるという前提にもとづくものであり、本研究で対象としている低放射率面を含む空間での相互反射成分が熱放射伝達の主となる熱放射環境の解析・評価には不適切だからである。そこで、放射率が約0.9ではなく熱放射の室内表面での相互反射を考慮した熱放射伝達計算方法として、既往研究で示されていた「放射吸収係数」による放射熱伝達計算を用いることにし、これに基づいた「放射環境温度」を熱放射環境を表わす指標として用いるための計算法の整理及び試算・検証を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実施計画では、令和4年度中に1)低放射率室の特徴を温熱環境シミュレーションで再現できるようにし、2)それに必要な放射熱伝達解析手法と放射熱伝達係数の実用値等を整理することを予定していた。1)については、温熱環境等シミュレーションソフトウェア「TRNSYS」を購入し、室内表面が低放射率化された建築空間で放射冷暖房を行なった場合の室内温熱環境シミュレーションを複数ケースについて実施して解析・検証を行なった。このことにより、低放射率室及び放射冷暖房に関する温熱環境シミュレーションを実施する手法を確立した。また2)については、室内空間における放射熱伝達理論を詳細に再整理しつつ、同時に関係する既往研究の調査を平行して行なった。その結果、室内表面での熱放射の相互反射を考慮した熱放射伝達計算方法として「放射吸収係数」による放射熱伝達計算について記した既往研究を見つけることができた。また、これに基づいて室内の熱放射環境を表わす指標として記されていた「放射環境温度」も、試算・検討の結果本研究での解析・評価に用いることにした。 令和5年度以降は、これらの成果を用いて、温熱環境計算結果を用いた人体熱収支計算及び温冷感評価や、低放射率内装材の使用方法の最適化等に関する検討を行なう。また研究分担者の担当分の研究については、初年度(平成4年度)に引き続き研究分担者(胡 致維)が中心となり実大実験棟内居室を低放射率内装とした室内温熱環境実測を実施し、異なる条件のデータを令和5年末ごろまで収集を続ける。研究分担者(山田保誠)は、補助事業期間全体を通じて実験棟実験が滞りなく実施できるように実験棟・機器等の維持管理を行ない、実験条件に応じた改修工事の準備・管理を行なう。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目となる令和5年度以降は、以下の[2]と[3]について実施する。 [2]低放射率空間における人体熱収支の解析理論の構築と温冷感評価法の開発:これまでの人体熱収支理論で考慮されている熱放射は、室内表面に一度吸収されて再放射されることによって人体に届く成分のみである。一方、低放射率空間では、人体に届く熱放射の主たる成分は室内表面で相互反射の過程で人体表面に届く成分なので、放射パネル面から放たれるときと同じ質(波長分布)を保っている。この相互反射によって人体に届く熱放射を、従来の人体熱収支理論に組込めるように、令和4年度の成果である放射吸収係数による放射熱伝達理論にもとづいた「放射環境温度」を適用する。これにより、低放射率空間における人体の熱エネルギー収支・熱エクセルギー収支とを計算と、温熱環境と温冷感・快適性の質の違いを明らかにする。 [3]低放射率面の配置・面積率と冷暖房方式との最適化方法の解明:単室模型による基礎的特性検証実験では放射パネル面以外のすべての室内表面が低放射率面である場合が、温熱環境向上及び電力消費量削減の効果が最も高かった。しかしながら、実空間では全表面を低放射率とするのは難しい。そこで研究代表者(淺田)が、どの面をどれだけ低放射率面とするのが効果的なのか、また放射冷暖房と組み合わせた際の放射面の位置(床や壁面)や面積の最適化について検討するとともに、放射冷暖房パネル面の温度緩和(高温放射冷房及び低温放射暖房)がどの程度可能であるか、令和4年度の成果である温熱環境シミュレーションと[2]の成果を用いて令和5年後半から令和6年前半にかけて検討を実施する。また低放射率内装とパッシブ型手法との適切な組み合わせについても検討する。最後に、温熱環境シミュレーションを行ない比較・分析することにより、低放射率材による建物外皮の熱的性能向上効果についても解析し評価する。
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Causes of Carryover |
研究実施計画では、初年度(令和4年度)に実建物空間における室内表面低放射率化の効果に関する温熱環境実測用の測定機器やデータロガーの購入を計画していた。しかし、半導体不足やコロナ禍などの社会的な状況が重なったことから、主要な機器類の在庫がなくなり購入することができなかった。そのため、測定機器類及びそれらを用いた実験実測の実測は次年度以降に実施することとした。また、コロナ禍等により建築学会大会等の学会がオンライン開催となったことから、学会参加のための旅費なども次年度使用となった。 令和5年度は、温熱環境実測用の多チャンネルデータロガー(約190,000円)と実験消耗品等(約90,000円)を購入し、実建物における温熱環境実測の計画・準備を進め実施できるようにする。また、本研究のこれまでの成果を論文にまとめ令和5年度中に国際的な研究発表会に投稿し、令和5年度または6年度に発表会に参加し口頭発表を行なう(発表登録費、参加費、旅費宿泊費を含めて約400,000円)。
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Research Products
(2 results)