2023 Fiscal Year Research-status Report
高効率環境発電素子の実現に向けた配向制御アパタイト結晶のエレクトレット化
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22K04692
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
楠 正暢 近畿大学, 生物理工学部, 教授 (20282238)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
杉本 俊之 山形大学, 大学院理工学研究科, 准教授 (10282237)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ハイドロキシアパタイト / エレクトレット / 一軸配向 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度(令和4年度)に、近畿大学(代表)では一軸配向HApの高温・高電界分極処理装置の作製を行い、山形大学(分担)では、固定化された電荷の測定を行うための表面電位測定装置の改良を行った。また、ヤング率、誘電率、電気絶縁性などの基礎物性の評価も行い、今回着目している一軸配向結晶HAp膜が、従来の多結晶HApと異なる性質を持つことを実験的に確認し手ごたえを得た。試料の電気絶縁性は著しく高く通常の抵抗測定器のレンジを超えたため、ここでも表面電位計測装置を活用し評価を行った。その結果、HAp膜内に連続的な電流が流れるパスは存在しないものの、不純物や欠陥等を介してホッピング伝導していることを示唆する結果が得られた。これはエレクトレットの性能を低下させる原因となり得るため、改善が必要であるという指針を得た。そこで、本年度(令和5年度)はまず、結晶中の不純物や欠陥を少なくすることを目的に、結晶成長プロセスの見直しを行った。スパッタリングによる結晶成長時の成膜パラメータの調整よりもポストアニールによる結晶性の向上が顕著であり、絶縁性も向上したため、その試料に対して電荷固定の実験を行ったが、表面電位測定では今のところ分極していることを示す結果は得られていない。その原因について、4通りの可能性を検討した。文献による他の材料との比較や、実験の手法上、ある程度の分極は生じていると考える方が妥当であるため、試料の構造や測定法を見直すことを考え、その対策を最終年度に実施することを予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
結晶中の不純物や欠陥を少なくするための、試料の高品質化については、スパッタリング時の成膜パラメータ(ガス圧、成長温度、成長速度など)は本課題実施前に最適化していたため、さらなる調整を試みたが劇的に改善することはなかった。これを踏まえ、成膜後に大気中でポストアニールを行ったところ、効果的な結果が得られ、X線回折強度が1.5倍以上に増加した。この結晶性の改善により、HAp膜の電気絶縁性は一層向上することも確認できた。そこで、この試料に対し、高温・高電界分極処理装置を用い、分極処理を施した。当初は高温で分極処理する際に結晶内のOやHが蒸発することを防ぐ目的で、水蒸気雰囲気中で行うこと計画していたが、高電界をかけた際に耐電圧が下がり放電が生じたため、真空中で行うよう計画変更した。しかし。懸念された構成元素の欠損は生じず試料の結晶上の劣化は発生しないことが確認できた。分極のためのパラメータ(温度、電界強度)を様々な組み合わせで試みたが、現状では電荷が固定されていることを示す結果は得られていない。原因として、①絶縁性が未だ不十分で外部から電荷が入り込み固定した電荷による分極を中和してしまっている、②薄膜という試料の構造上、固定電荷の効果を計測できていない、③OH基の方向が未だランダムで電荷固定ができていない、④理論的な予測自体に誤りがある、の4通りの考察を行っており、最終年度に向け、それを明らかにしなければならないと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究開始から2年目までは、おおむね当初計画に沿って実施できたが、今のところ一軸配向HAp結晶膜への電荷固定の効果は観測されていない。その原因が「そもそも電荷固定自体ができていない」のか、「電荷固定はできているがその効果を観測できていない」のかを明らかにできていないが、上記①~④の可能性を想定して検討を始めたところである。①については、令和5年度に改善の方針が得られたため、結晶性を一層高めるようプロセスをさらに改良する計画である。また、②についてはHAp膜の厚さが現状で500nm程度であり、その膜の両面に正負の電荷がそれぞれ向かい合って存在しているとすると、距離が近すぎるため互いに打ち消し合う効果が大きく、表面電位計で測れるレベルの電界を外部に放出できていない可能性がある。これを改善するにはHApの膜厚を大きくする必要があるが、気相成長での成膜の場合、膜厚の増加とともに平滑性や結晶性が低下するという一般的性質があるため、良好な結晶を維持した状態での限界膜厚を見極めながら、それを用いた改善を試みる。また、広い面上に分布した電荷ではコンデンサと同様に外部電界が発生しない可能性もあり得るため、HApを電気双極子状に加工することにより、外部電界の放出する可能性が考えられるため、その実験も試みる。それら①、②の考察をまずは踏まえたのち、必要に応じて③、④の可能性についても検討する。
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Causes of Carryover |
研究成果を論文発表するために必要な、投稿料、英文校正に使用することを予定していたが、令和5年度中に投稿できていないため、それを翌年度に繰り越す。
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