2022 Fiscal Year Research-status Report
Understanding and Designing of New Nickelate Superconductors from the Viewpoint of Multiorbital Electronic Structures
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22K04907
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
黒木 和彦 大阪大学, 大学院理学研究科, 教授 (10242091)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 超伝導 / ニッケル酸化物 / バンド計算 / 有効模型 |
Outline of Annual Research Achievements |
無限層構造を持つニッケル酸化物超伝導体(Nd,Sr)NiO2は、(Nd,Sr)NiO3から酸素を還元することによって得られるが、還元剤にCaH2を用いるため、水素が残ってしまう可能性がある。実際、当該年度後半において、それを示す実験結果が出版された。当該年度は、残留水素があった場合を想定して、水素を含む結晶構造に対して、バンド計算を行い、有効模型を構築した。具体的には、NdNiO2、(NdNiO2H0.5)2、NdNiO2Hに対する計算を行い、有効模型はニッケルの全てのd軌道を考慮する5軌道模型と、Ndの軌道を考慮する7軌道模型を構築した。水素の量が増えるにつれて、ニッケルdz2軌道を起源とするバンドのエネルギーが相対的に上昇することがわかった。 次に、NdNiO2とNdNiO2Hの5軌道模型と7軌道模型に対して、揺らぎ交換近似を適用して超伝導の可能性を調べた。NdNiO2では、フェルミ準位がニッケルdx2-y2バンドのみを切るので、単一バンド的なd波超伝導が出現することが先行研究において調べられているが、水素が入ることで、フェルミ準位が下がり、かつ、dz2バンドが上昇してくることで、単一バンド的な描像が崩れ得ることが期待される。実際、我々自身の先行研究において行われた、dz2バンドを固定してフェルミ準位のみを下げたrigid bandの計算では、多バンド効果により、dx2-y2とそれ以外のニッケルのdバンドの間で超伝導ギャップの符号が反転するs±超伝導が出現することが示された。実際に水素をあらわに考慮し、rigidバンド近似を用いない当該年度の計算でも、dx2-y2とそれ以外のバンドの間で超伝導ギャップ関数の符号が反転する超伝導の可能性があることがわかった。今後はさらに水素の量が少ない現実的な状況の計算を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
水素をあらわに含む場合の有効模型構築がやや難航したが、無事、H0.5の場合も含めて、有効模型構築を行うことができた。揺らぎ交換近似による超伝導の計算は、軌道数の多い計算になるため、かなり計算の収束に苦労するが、NdNiO2Hまでは行うことができた。(NdNiO2H0.5)2については、10軌道や14軌道の模型となるため、直接、揺らぎ交換近似の計算を行うことは難しそうであることがわかった。ただし、これについては、「今後の研究の推進方策」で述べる方針で取り扱うことができるとの着想に至った。 ニッケル酸化物超伝導体と類似の結晶構造を持つ複合アニオンニッケル化合物の圧力効果については、計算はほぼ終了しており、合成報告のある物質であるSr2NiO2Cl2に圧力を印加することで、いまだ合成報告のないCa2NiO2Cl2と同程度の超伝導のなりやすさがあることがわかった。これについては、現在、論文を執筆中である。 動的平均場理論の拡張による新手法の開発の進捗とも併せ、ほぼ順調な進捗といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
ニッケル酸化物超伝導体において残留水素があるとしても、実際の残留水素の濃度はNdNiO2Hに比べてずっと低いはずである。実際、当該年度の後半に出版された実験はそれを示唆している。しかし、前述したように、(NdNiO2H0.5)2については、10軌道や14軌道の計算となるため、揺らぎ交換近似の直接計算は難しいことがわかった。現時点までのNdNiO2Hに関する成果だけでも、ある程度の方向性はみえているが、これだけをもって論文発表することはリスクがあると考えている。そこで、以下のような方策をとることを着想した。まず、(NdNiO2H0.5)2や、可能であればより多くの水素を含む構造に対するバンド計算を実行して、有効模型を構築する。これらは超格子構造なので、有効模型は多くの軌道数になってしまうが、ホッピングやオンサイトエネルギーのパラメーターを抽出することで、有効的な5軌道(または7軌道)模型に落とし込むことが可能である。この考え方を用いて、現実的な水素濃度の領域に関する揺らぎ交換近似自体は、5軌道や7軌道で実行することにすることを計画している。 動的平均場近似の拡張による新手法については、現在、超伝導状態を扱えるように拡張中であり、本プロジェクト期間中にニッケル化合物への適用を見込んでいる。本プロジェクトがターゲットとする物質群は扱うべき軌道数が多くなることが避けられないため、低計算コストを売りとする本手法を活かすことができると考えている。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響により、学会や会議、研究打ち合わせが想定以上にオンラインで行われ、旅費を使用する機会がなかったため、次年度への繰り越しが発生した。次年度以降、現地開催が増える国内外の学会、会議、研究会の参加のために活用する。
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