2022 Fiscal Year Research-status Report
ホウ素と磁性金属界面の作製とその偏極光電子によるスピン伝導測定
Project/Area Number |
22K04928
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
中川 剛志 九州大学, 総合理工学研究院, 准教授 (80353431)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 二次元物質 / 強磁性表面 / スピン偏極光電子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は二次元原子層であるホウ素薄膜と強磁性薄膜界面を作製し、その電子スピン輸送をスピン偏極した光電子により非接触に測定し、界面結晶構造と電気的・磁気的特性の関係を明らかにすることである。 研究は次の2つの過程に分けて進めている。1)ホウ素薄膜試料の作製と2)光励起によるスピン偏極電流生成と測定である。 1)のホウ素薄膜試料作製では、強磁性基板としてニッケルを用いて単層ホウ素薄膜の作製に取り組んだ。ホウ素の蒸着速度、試料加熱温度を適切に設定した場合に、単相で数百nmの大きさをもつホウ素薄膜を得ることができた。このホウ素薄膜の結晶構造について、走査トンネル顕微鏡、低速電子回折、第一原理計算から検討し、構造を推定した。このニッケル上のホウ素薄膜を用いて、ニッケルでのスピン偏極電流の生成およびその電子スピンのホウ素薄膜内での輸送を測定する予定である。重金属を組み合わせた多層膜では高いスピン偏極度が期待できる。そのため、モリブデン基板上でのホウ素薄膜も作製した。 これまで強磁性物質表面上で単層のエピタキシャルホウ素薄膜を作製した例はなく、大きな前進であると言える。研究当初はホウ素のニッケルへの固溶が懸念されたが、固溶を抑えつつ、ホウ素が結晶化する適切な条件を見いだせた。 2)スピン偏極電流生成には波長250nm付近の深紫外光を励起源として用いる。現在、深紫外光源の選定を終えたが納入に時間がかかることから、その間に円偏光入射できる光学系、光電子測定は簡便な電子収量法を用いた観測系、真空装置を立ち上げている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
強磁性―ホウ素薄膜接合面を予定通り作製でき、さらにその構造についても確度が高いモデルを見出すことに成功した。試料作製ではホウ素の蒸着速度、蒸着量を高精度で制御する必要がある。これまでタングステン上でのホウ素薄膜作製では蒸着精度はそれほど要求が高くなかったが、ニッケル上では試料作製の再現性を上げるためには、高い蒸着精度が必要であることが分かった。再現性よい実験のためにホウ素蒸着源と質量分析器を組み合わせた蒸着システムを構築している。そのため研究計画にはない設備を導入している。その代わり、深紫外光源を汎用性の高い最近市販が始まったLEDとすることで研究全体の設備を準備できる目途がついた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度の前半にはホウ素/ニッケル系の試料での光電子測定を開始し、偏極電流のニッケル基板磁化依存性の測定に取り組む。ホウ素/ニッケル系の成果を論文発表をする。
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Causes of Carryover |
ホウ素は低蒸気圧のため蒸着速度コントロールが難しく、また低質量のため膜厚計での測定感度が低い。そのため、蒸着が安定せずに、実験結果が安定しない。これを解決するため、質量分析器を導入し、蒸着速度コントロールできるシステムを構築することにしたため、質量分析器を新たに購入した。光源については、安価な深紫外LEDを入手できそうなので、1年目に計画していた光電子測定装置の立ち上げは2年目に行うこととする。
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