2023 Fiscal Year Research-status Report
Precision Synthesis of Microcrystalline Particles with a Hierarchical Hollow Structure
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22K04946
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
柴 史之 千葉大学, 大学院工学研究院, 准教授 (10312969)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | プルシアンブルー類似体 / 微粒子 / 液相合成 / 構造制御 / サイズ制御 / 形態制御 / デンドライト |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,多重シェル構造などの階層的中空構造をもつ無機微結晶粒子の精密合成と,その物理化学的生成原理の理解を目的としたものである。今年度も引き続き,ヘキサシアニド鉄酸ランタン(La-HCF)微結晶粒子の形態制御およびヘキサシアニド鉄酸マンガン(Mn-HCF)中空粒子のサイズ制御に重点をおいて研究を行った。 La-HCFに関しては,昨年度見いだした特徴的な樹状形状微結晶について,生成条件を精査した。この微結晶は,六方晶構造のc面内において,中心の六角形の各頂点に別の六角形が接合し,これらがc軸方向に成長した形状となっている。このc面内の形状は,ある種の雪結晶に類似している。また特定のpH範囲でかつ高過飽和で一定以上の反応条件でのみ生成するという,生成環境により形状が大きく左右されることから,雪結晶の成長機構との類似性が推定された。この成果はCrystEngComm誌にて論文公表した。 また,La-HCF系についてはLaイオンを,イオン半径の異なる他のランタノイド(Ln)イオンに置き換えることによる格子定数や結晶構造変化の微結晶形状への影響を検討した。六方晶となるLnイオンの場合,程度の差はあるが樹状結晶的な形状となった。直方晶となるYbイオンを用いた場合は球形粒子となった。Ln-HCFの形態制御においてイオン半径が重要な要素であることが示された。この成果については学会発表により公表した。 一方,Mn-HCF中空粒子については,Rbイオン添加によるサイズ減少効果について,条件の精緻化を行うとともに,サイズが減少するメカニズムの検討を行った。Mn-HCFの溶解度は,固体に取り込まれているRbイオンの量に応じて低下することがわかった。この溶解度変化が,核生成過程における生成核数を変化させ,粒子サイズの減少を引き起こしたと結論された。この成果については学会発表により公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
階層的構造を有する中空粒子を精密合成するにあたっては,内部シェルとなる中空粒子やテンプレートとなる階層的形状粒子を,再現性よく,かつ精密に合成する必要がある。特徴的な形状のLa-HCF微結晶の合成法や,Mn-HCF中空粒子のサイズ制御方法の基本は,昨年度に見いだしていたが,今年度,その生成要件や原理に関する理解を深められたことは,本研究課題の達成に対して大きな意義があると言える。 La-HCFに関しては,今後,表面反応によるシェル形成と内部溶解による中空化を行っていくが,このプロセスの効率には比表面積が大きく影響するはずである。従って,特徴的な形状のLa-HCF粒子も,形状を維持したままでサイズが小さい方が好ましい。今回,生成要件を精査する中で,反応温度を高くすることで粒子サイズを小さくできることを見いだしたことは,中空化に取り組む上で大きな進展であった。また,Laの変わりにTbやYbを用いた場合も,比較的形状の揃った粒子が生成しており,同様のプロセスを経ることで,異なる形状の中空粒子が生成するための基盤を築けたといえる。 Mn-HCFの多重シェル構造構築に際しては,内部シェルを作成する際に用いたRbイオンが,外部シェルの積層過程で悪影響を及ぼす可能性を排除する必要があることから,その作用機構を明確にすることが重要であった。粒子形成時にコア部の格子間空間に取り込まれたRbが,水洗溶解による中空化過程で,Kとイオン交換する形でシェル部に残存することがわかった。Rbによる溶解度低下は,外部シェル形成時に有利に働くと期待される一方で,Rbの存在には引き続き注意が必要であることが判明した。これは今後の研究推進において重要な知見である。 以上の成果を得て,階層的中空構造粒子の生成の基盤が確立したことから,本研究は概ね順調に進行していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は本課題研究のゴールを目指す内容となる。La-HCFについては,これをテンプレートとして中空化する反応処方の確立を目指す。具体的にはLaイオンを他のFeなどの遷移金属イオンに置き換える形で,La-HCF微結晶の表面に溶解度が相対的に低いプルシアンブルー類似体のシェルを形成し内部を溶解させて中空化させることを想定している。現在までに行った予備実験で,不完全ではあるが,シェルが形成して内部は溶解する反応系を見いだしており,反応条件の最適化を行うことで中空構造の構築を目指す。またその反応機構の解析することで,より有効な反応処方の構築にもつなげていく予定である。更に,この手法を他のLn-HCF微結晶にも適用して,様々な形状の中空粒子生成を目指す。 Mn-HCFについては,様々なサイズの内部シェル粒子を用いて,多重シェル中空粒子を作成する。この際,内部シェル粒子の数を変えることで,各粒子に配分される反応資源量を変え,内部と外部のシェル間距離の制御を試みる。これらを通して任意のサイズ・シェル間距離を有する多重シェル中空粒子の生成方法を確立する。 また,これらの中空構造粒子を焼成して酸化物に変換する過程において,中空構造を維持できる焼成方法や条件があるかの探索を行い,将来的な機能性付与に関する基礎的な知見の取得を試みる。
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Causes of Carryover |
研究に用いている透過型電子顕微鏡および走査型電子顕微鏡の維持・修理費は,使用実績に応じて利用者で按分して分担することになっているが,本年度は幸いにして多額の分担が生じるトラブルが発生しなかった。また参加した学会の開催地が長野市で,千葉から比較的近く,交通費の負担があまり大きくなかった。これらの事情により次年度使用額が生じた。今年度は研究最終年度であるが,引き続き実験が中心となるので,機器の故障等には備えつつ,実験に必要な試薬や電子顕微鏡関係の消耗品に計画的に使用していく。
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