2023 Fiscal Year Research-status Report
炭素イオンがん治療二次被ばく評価用重イオン核反応模型の研究
Project/Area Number |
22K04989
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
魚住 裕介 九州大学, 工学研究院, 准教授 (00232801)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
Keywords | 重粒子線治療 / 重イオン反応 / 二重微分断面積 / 核内カスケード模型 |
Outline of Annual Research Achievements |
炭素イオンがん治療において正常組織に対する低線量被ばくを見積もる際には、高精度の粒子輸送計算が必要であるが、炭素イオンや核反応二次イオンであるα粒子による原子核反応の計算は精度が低く、課題が多く残っている。核反応模型では炭素イオン等による核反応からの生成粒子のエネルギー、収量を示す二重微分断面積(DDX)が必要となる。本研究では、クラスター分裂過程を取り入れた核内カスケード(INC)模型を新しく提案し、広い範囲での各種クラスター生成DDXの再現性を向上させ、これに基づく粒子輸送計算コードの開発を目的とする。 本研究では医療応用に特化して炭素イオン入射核反応と、これに付随するα粒子核反応の理論模型を高度化する。このため、実験によりDDXデータを取得・整備して、低エネルギー領域のα粒子核反応に対して成功した独自の模型を高エネルギーのα粒子核反応、炭素イオン炭素イオン核反応に拡張し、(C, px)反応から(C, C’x)反応まで全ての反応チャネルの二重微分断面積計算を可能にしたい。 データ収集は、量子医科学研究所のHIMACにおいてエネルギー100 MeV/uの炭素イオンビームを用いて実施した。ターゲットとして炭素など人体構成元素を用い、反応からの各種放出粒子の二重微分断面積を広いエネルギー範囲に渡って測定した。実験データに関する文献調査を行い、先行研究で得られた62 MeV/uと95 MeV/uのデータ間に矛盾があることが分かったため、エネルギースケーリングを適用して本実験データとの比較検討、およびMoving Source解析を通して本データの信頼性を確認した。 α入射反応は前年度測定したデータを多角的に分析して、論文として公表した。さらに反応機構をモデル化してINC模型に取り入れ、計算精度の向上に成功することができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度は計画2年目であり、実験データ取得整備と反応機構の検討・理論モデル構築を主として進めると共に、原著論文の公表および学会、国際研究会での発表を行った。 実験データに関しては、核反応模型の構築と検証のため高品質であることが必須である。過去に他グループが取得した類似のデータには62 MeV/uと95 MeV/uの二つがあるが、それらの間にはスペクトルの高エネルギー側に矛盾がある。この矛盾を解消した上で、系統的なデータ収集および整備を進めることが必要である。国内でデータ収集実験が可能な施設は量子医科学研究所のみであり、1年間に5日程度の実験しか許されない。さらに2023年度は電気代の高騰等の理由で後期の運転が中止になったため、計画した実験時間の半分となる3日間の実験を行い100 MeV/uの炭素イオンビームを用いて測定を行った。エネルギー校正に細心の注意を払って実験解析を進め、過去データとはエネルギースケーリング則の下で比較すると共に、Moving Source解析による検証も行い、本データの信頼性を確認することができた。決定した二重微分断面積データには内部矛盾など見られず、質は十分高くて論文化できる水準に達していると考えている。 前年度測定したα入射反応の二重微分断面積データは十分な分析と考察が出来たため、一部を論文として公表することができた。さらにデータ分析から得た知見を元に改良した核内カスケード模型計算で、実験値の再現性を大きく改善することに成功した。なお、フラグメンテーション過程は、炭素イオン入射反応とは全くことなる機構であることも明らかになった。 以上のことから、おおむね順調に進んでいると考えることが出来る。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の計画としては、実験データ取得と整理・分析、および理論模型の改良を引き続き行っていく予定である。 当初はα粒子と炭素イオンによる原子核反応は同じ反応機構に支配されると予想したが、前年度までに得た実験データはフラグメンテーション過程に大きな違いがあることを示唆するものである。α粒子反応は新しい知見に基づいてINC模型計算の改良を行った所、QMDやINCL模型と比べて大きく優る結果を得ることができている。しかし、間接ピックアップ過程の記述などに課題が残っていると見られるため、Auなど重い原子核を標的とした実験を行い、実験データの分析を通して間接ピックアップ過程の理解を深め、INC模型の精度を高めていく計画である。既存のデータセットの中で入射エネルギー最大は40MeV/uであることから、反応機構を調べる上では間接ピックアップの寄与の変化が観察可能なように100 MeV/u のデータの取得を行って系統性を明確にする。 Cイオン反応は100MeV/uでのデータを確定でき、過去の他グループデータ間の矛盾も解決できた。Cイオンデータは入射エネルギーが100MeV/uを超えるものは過去に無いため、180MeV/u のデータは世界初であり意義が大きい。理論面ではフラグメンテーション機構の理解が大きく進み、申請時とは全く異なる極めてシンプルな描像で捉えている。機械学習に物理的拘束条件を取り入れたクラスター状態係数の決定方法を研究していく予定である。 HIMACの運転が不透明な状況であるため、当初予定したデータを集めることが出来ない可能性が出てきた。炭素イオン入射反応に関しては、酸素イオンなどの反応データが比較的多く存在することや、Moving Source Model解析の有効性が確認できた点など踏まえて、これらを有効活用して計算モデル改善につなげていきたい。
|
Causes of Carryover |
旅費を多めに見積もって申請した結果、差額が生じてしまった。
|