2023 Fiscal Year Research-status Report
疑似核分裂片としてのMeV-C60の核・電子相乗効果によるトラック型欠陥形成
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22K04990
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
雨倉 宏 国立研究開発法人物質・材料研究機構, エネルギー・環境材料研究センター, 主席研究員 (00354358)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | イオントラック / クラスターイオン / C60 / シリコン / ダイヤモンド / 核・電子相乗効果 / 半導体 |
Outline of Annual Research Achievements |
イオントラック形成はイオンビームの電子励起効果により引き起こされると考えられ、電子的阻止能Seにより記述されると信じられていた。しかし最近我々はSiにおいて、同じSeでも単原子イオンではトラックが形成されず、C60イオン照射ではトラックが形成される現象を観測した。この現象は単なる速度効果では説明できず、機構の解明に寄与するのが本研究課題の目的の一つである。この目的のために、3つの研究アプローチを取ることとしている:(1)材料をSiに固定して多様な条件での詳細な研究、(2)同様の挙動を示すSi以外の物質の探索、(3)数値計算との比較である。
今年度(2023年度)は、(2)のアプローチとして、Si以外の物質で同様の挙動を示す物質の探索を行ったところ、ワイドギャップ半導体としても注目されているダイヤモンドにおいて、Siとよく似た挙動を観測した。ダイヤモンドは、どのようなエネルギーのどんな種類の単原子イオンを照射してもイオントラックを形成しないと信じられていた。実際、GeV域でのUイオン照射も行われたが、トラックは形成されなかった。しかし、我々は数MeVのC60イオン照射によりダイヤモンドにイオントラックが形成されることを発見した。
(3)の数値計算では、トラック形成をイオンからのエネルギー付与による融解と関連付けた非弾性熱スパイクモデルを用いてきたが、これはダイヤモンドには適用できない。ダイヤモンドは加熱されると、通常の圧力では融解しないでグラファイト化してしまうためである。そこで適用性の広い二温度分子動力学法をフィンランドのグループに協力してもらい適用し、C60照射ではトラックが形成されるが、単原子イオン照射では形成されない挙動を正しく再現した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
良好な点と問題点、両者とも以下に記すように存在するが、総じて計画以上に進展していると判断する。 【良好な点】 なによりも、イオントラックが形成されないと当該分野では信じられていたダイヤモンドに対して、数MeVのC60イオン照射を行い、イオントラックが形成されることを発見した。それだけでもインパクトのある結果ではあったが、詳しい透過電子顕微鏡観察、最新の収差補正の高分解能像観察、二温度分子動力学法のシミュレーション技術を組み合わせて、極めてインパクトのある成果として、Nature-Communications誌に論文が掲載された。当初予想していたよりも、よい成果が上がった。また地道ながら興味深い成果もSiについて得られつつある。 【問題点】Siとダイヤモンドという単元素半導体についてはトラックの観測が成功した。しかし、AlN、ZnO、GaAsといった化合物半導体については実験を試みたが、多数の欠陥構造が観測され、どれが本当にトラックなのかの判別が難しい状況は改善されていない。
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Strategy for Future Research Activity |
研究実施計画そして研究実績概要で述べたように3つの研究アプローチで進める: (1)材料をSiに固定して多様な条件での詳細な研究、(2)同様の挙動を示すSi以外の物質の探索、(3)数値計算との比較である。
(1)に関しては、2022年度においてこれまでより高エネルギー側でのデータの取得を行った。昨年度より低エネルギー側でのデータ取得の進めており、今年度は補足データを取得後に論文にまとめる予定である。(2)については昨年度ダイヤモンドにおいて大きな成果が得られた。今後は化合物半導体のトラック探索に再トライする。(3)では計算モデル「非弾性熱スパイク法」についてはアルジェリア、「二温度分子動力学法」についてはフィンランドのグループと連携で進めていく。
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Causes of Carryover |
2023年度分に関しては、あまり次年度使用は発生していない。問題は2022年度分であり、すでに昨年度の実施状況報告書に書いたように、当初の計画では2022年6月フィンランド開催の国際会議に出席するはずであったが、申込締切の2022年4月の時点でコロナが沈静化されておらず、所属組織の方針としても参加は勧められていなかったために出張を断念し、そのため参加費及び旅費の次年度使用が発生した。 最終年度である2024年度は、当該分野で定評のある国際会議ICACS-SHIM2024(11月に豪州開催)に招待講演を依頼された。円安で厳しそうであるが、高名な国際会議なので出席したい。招待講演とはいえ、旅費や宿泊費を補助されないため、科研費から捻出することとなる。丁度、2年前に欠席した国際会議費用と相殺するであろう。また比較的レベルの高い論文誌への投稿も予定しており、論文が採択されれば、論文掲載料50万円が必要となる。さらにダイヤモンドなどの高価な試料購入も必要で、次年度使用を含め予算は確実に消化すると思われる。
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Research Products
(15 results)