2022 Fiscal Year Research-status Report
Non-adiabatic transition dynamics in aggregation-induced emission
Project/Area Number |
22K05025
|
Research Institution | Chiba Institute of Technology |
Principal Investigator |
山本 典史 千葉工業大学, 工学部, 教授 (30452163)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤崎 弘士 日本医科大学, 医学部, 教授 (60573243)
上田 将史 北里大学, 理学部, 助教 (60778611)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 凝集誘起発光 / 非断熱遷移 / 分子シミュレーション / 光機能性材料 / 大規模複雑系 / 三脚巴状分子 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、凝集誘起発光(AIE)において非断熱遷移ダイナミクスが巧みに制御されるメカニズムの深い理解とその活用に向けた道筋を示すことを目指した基礎研究に取り組んだ。AIEとは、分子が凝集することで発光効率(蛍光量子収率)が高まる現象であり、これを利用することで革新的な光機能材料の設計・最適化が可能となる。しかし、AIEを発現する系では大規模かつ複雑な凝集系の非断熱遷移ダイナミクスを解析する必要があるため、その動的メカニズムの詳細はまだ明らかになっていない。本研究では、この課題に対処するため、大規模かつ複雑な凝集系の非断熱遷移ダイナミクスを効率的に捉えるための分子シミュレーション手法の開発を目的とする。さらに、開発した手法を用いることで、分子がAIEを発現するまでの動的な過程を描き出し、非断熱遷移過程の制御という観点からAIEメカニズムの本質を解明することを目指す。
今年度の具体的な研究成果としては、AIEを示す三脚巴状分子について、その発光メカニズムの理論的な解析をQM/MM自由エネルギー摂動法を用いて行った。その結果、三脚巴状分子がAIEを示す分子論的なメカニズムを明らかにすることに成功した。また、山本(代表者)が先行研究で用いたスピン反転時間依存密度汎関数法(SF-TD-DFT)を用いて、代表的なAIE分子のテトラフェニルエチレンを対象として、その非断熱遷移ダイナミクスの基礎研究を進めた。これらの成果は、AIEを発現する分子の設計・最適化の基礎を確立するという重要な意義を持つ。AIE色素は高次光機能性を持つ革新的材料であり、その利用範囲は広い。本研究の成果は、その設計・最適化に対する新たな指針を示すものであると考えられる。本研究をさらに発展させることで、AIE過程における非断熱遷移ダイナミクスの理解を深め、新たなAIE色素の設計・最適化につなげていくことを目指す。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の進捗状況はおおむね順調であると判断している。その理由は以下の通りである。
まず、凝集誘起発光(AIE)という現象の動的メカニズムを理解するためのシミュレーション手法の基礎の確立に成功している点が挙げられる。これにより、大規模かつ複雑な凝集系の非断熱遷移を効率的に捉えることを目指すことが可能となり、AIEメカニズムの本質を明らかにする新たな道筋が示された。次に、具体的なAIE色素についての解析も進展している。AIEを示す三脚巴状分子について、QM/MM自由エネルギー摂動法を用いて理論的な解析を行い、そのメカニズムを明らかにすることに成功した。これは、AIEの詳細なメカニズムを理解する上で大きな一歩である。また、代表的なAIE色素であるテトラフェニルエチレンについて、山本(代表者)が先行研究で用いたスピン反転時間依存密度汎関数法(SF-TD-DFT)を用いて非断熱遷移ダイナミクスの基礎研究を進めている。これにより、非断熱遷移ダイナミクスを効率的に解析するための理論的な基礎がさらに強化された。さらに、これらの研究成果は、AIEを発現する分子の設計・最適化の基礎を確立するものであり、その意義は大きい。高次光機能性を持つ革新的材料であるAIE色素の応用範囲は広く、本研究の成果がその設計・最適化に対する新たな指針を示すものである。
以上の理由から、本研究の進捗状況はおおむね順調であると評価している。今後も本研究をさらに発展させ、非断熱遷移ダイナミクスの理解を深め、新たなAIE色素の設計・最適化につなげていくことを目指す。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の今後の推進方策は、以下の通りである。まず、開発している分子シミュレーション手法の活用を更に発展させることが求められる。本研究で取り組んでいる非断熱遷移ダイナミクスの新しい捉え方は革新的であり、これを活用してより多くのAIE色素についての研究を効率的に進めることが可能となると期待できる。また、異なる複数種類のAIE色素について分子シミュレーションに基づく理論的な解析に取り組み、得られた結果の詳細を比較・解析することで、AIE発現の普遍的なメカニズムを探ることが重要である。特に、三脚巴状分子に対するさまざまな類延体の解析結果を基に、新たなAIE色素の設計・最適化につなげることが必要となる。具体的には、解析結果から得られた知見を元に、AIE色素の設計原理を構築し、それを基に実験的な合成を試みる。これにより、理論と実験の連携を強化し、AIE色素の新たな応用領域を開拓することが期待される。また、代表的なAIE分子であるテトラフェニルエチレンをモデル分子として、非断熱遷移ダイナミクスの解析手法に関する基礎研究をさらに深める。ここでは、非断熱遷移ダイナミクスをより効率的に解析するため、ニューラルネットワークポテンシャル力場などを用いた新規手法の開発を進める必要があると考えている。さらに、本研究の進捗を広く共有し、多様な視点からのフィードバックを得ることも重要である。研究成果を定期的に学術誌に発表するだけでなく、学会等での発表も積極的に行うことで、他の研究者からの有益な意見を集め、研究の質を向上させる。以上の推進方策を通じて、本研究は複雑なAIEプロセスに対する真の理解を深めて、その合理的な設計・最適化に向けた新たな指針を提供することを目指す。
|
Causes of Carryover |
令和4年度の研究費の残高は、予定していた物品の購入などが予算額を下回ったことと、一部の学会や打ち合わせがオンライン開催となり交通費などが節約されたため生じた。
令和5年度の使用計画は、この残高を含めて効果的に活用するものである。具体的には、開発中の分子シミュレーション手法のさらなる活用のため、計算環境の強化に資金を投入する。高性能な計算機の追加導入や、最新のシミュレーションソフトウェアの購入を考えている。これにより、多様なAIE色素についての研究をより迅速に、かつ効率的に進めることが可能となる。また、非断熱遷移ダイナミクスを解析するための基礎研究をさらに深めるため、必要なソフトウェアのライセンス更新費用などを確保する。最後に、学術誌への論文投稿費や国内外学会の参加費を計上する。これにより、研究成果の共有を推進し、他の研究者からの意見やフィードバックを集め、研究の質を向上させることができる。以上の方策により、予算を最大限に活用し、研究の進展を図る。
|
Research Products
(6 results)