2023 Fiscal Year Research-status Report
Understanding the enzymatic mechanisms of the oxygen-evolving complex based on theoretical X-ray spectroscopy
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22K05035
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
齋藤 雅明 名古屋大学, 物質科学国際研究センター, 助教 (40832556)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 大規模複雑系 / 電子状態 / 電子相関 / 光化学反応 / 量子化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
大規模複雑系の励起状態計算のための基礎理論であるLVMO-PNO-NEVPT2法の開発を行なった[K. Uemura, M. Saitow, T. Ishimaru, T. Yanai, J. Chem. Phys. 158, 154110 (2023).]。静的電子相関のみならず動的電子相関も取り込むことができる多参照摂動理論であるNEVPT2法は、高精度である反面その計算コストの高さから100原子系程度にしか適用できなかった。本手法は、対自然軌道 (PNO) 理論を用いることでNEVPT2法のボトルネックを解消し、数百原子から成る大規模複雑系の高精度計算を可能とするものである。高精度NEVPT2法とPNO理論とを組み合わせる試みとしてはGuoらによるDLPNO-NEVPT2法[Y. Guo et al., J. Chem. Phys. 144, 094111 (2016).]がある。DLPNO-NEVPT2法では、コンパクトな仮想軌道表現であるPNOを構築する前段階の中間表現として、非直交な射影原子軌道 (PAO) を用いる。従って、PNO構築に際してPAOの直交化を行う必要があった。その一方で本手法では、PAOの代わりに正規直交基底である局在化仮想分子軌道 (LVMO) の線型結合としてPNOを構築する。従って本手法ではPAOに基づくDLPNO-NEVPT2法と比較して、プログラム実装および定式化がよりシンプルなものとなるという利点がある。歴史的には仮想分子軌道の局在化は、複雑な極値問題に帰着され、軌道局在化によく用いられる一次の軌道最適化アルゴリズムでは求解が困難であった。こういった経緯から非直交なPAOが導入された。本研究では、augmented Hessian法に基づく二次の軌道最適化ソルバーを開発し、この問題を解決することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
大規模複雑系に適用可能な高精度電子論LVMO-PNO-NEVPT2法の開発を行なった。従来型の単状態(state-specific-, or SS-)NEVPT2法は、よく分離された電子状態については高精度であるが、円錐交差や擬交差といった種々の光化学反応計算では、エネルギー的に近接した状態間の相互作用の取り込みが重要となる。そこで申請者らは、大規模光化学反応計算のためのスケーラブルな電子論LVMO-PNO-QD-NEVPT2法の開発を行い、これに成功した [M. Hayashi, M. Saitow, K. Uemura, T. Yanai, J. Chem. Phys. Accecpted for publication] 。QD-NEVPT2法では、状態間の相互作用を擬縮退摂動 (QD) 理論により取り込む。QD理論は線形応答 (LR) 理論に基づく手法よりも高精度である反面、計算可能な状態数に制限があるという特徴がある。しかしながら、今回申請者らが開発したLVMO-PNO-QD-NEVPT2法であっても、大規模分子の内核励起スペクトル計算は可能である。今後はLVMO-PNO-QD-NEVPT2法を用いてOEC励起スペクトル計算を行う。更に、LR法に基づくMR-SOPPA開発も行い、この手法を用いてOECモデルに対する内核励起スペクトル計算も併せて行い、OEC電子状態の解明を試みる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はLR理論に基づくMR-SOPPA法及び、PNO-MR-SOPPA法の開発を進めるとともに、これまでに開発したLVMO-PNO-QD-NEVPT2法を用いてOEC内核励起スペクトル計算を進める。MR-SOPPA法で解かれる固有値方程式は、数千項の複雑なテンソル縮約項からなり、これらを手動で導出しプログラム実装することは現実的ではない。そこで申請者は、MR-SOPPA固有値方程式の導出及び実装には申請者が先行研究で開発した多電子方程式の自動導出・自動実装ツールFemto [M. Saitow, T. Yanai, J. Chem. Phys. 152, 114111 (2020).] を用いる。まMR-SOPPA法を局在化対自然軌道 (PNO) 基底で展開し、大規模系にて適用可能なスケーラブルな高精度励起状態理論LVMO-PNO-MRSOPPA法へと拡張する。他の研究グループによっても、Femtoと同様な自動実装ツールは近年、盛んに開発が行われているが、PNO表現での多電子方程式の自動プログラム生成を可能とするものは申請者の知る限り、申請者らによるFemtoのみに限られる。今後は、MR-SOPPA法のみならずLVMO-PNO-MRSOPPA法の開発も自動実装ツールFemtoを用いて行う予定である。またLVMO-PNO-MRSOPPA法及びLVMO-PNO-QD-NEVPT2法を用いて酸素発生複合体 (OEC) モデル分子の内核励起スペクトル計算を行い、その電子状態の解明を目標とする。
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Causes of Carryover |
酸素発生複合体 (OEC) 内核励起状態計算用の高性能ワークステーションの購入を計画していたが、昨今の円安の影響でメモリーを含む半導体の価格が急騰しており、差額分では十分な性能のものが購入できないことが分かった。そこで次年度に繰り越し、次年度予算と併せての購入を行う予定である。具体的にはCPUにIntel Xeon Gold 5520+を、メモリー256 GB以上を搭載した計算機が必要である。これには約150万円程度の予算が必要となる見込みであり、次年度の前半で導入する計画である。また次年度には北海道大学を会場として国際学会8th Japan-Czech-Slovakia international symposium on theoretical chemistry (JCS8)が開催される。申請者はJCS8学会の招待講演者であるため、これまでの研究成果を発表し、欧州の研究者と情報交換を行う予定である。
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