2022 Fiscal Year Research-status Report
第一原理計算およびデバイス・モデルによる非フラーレン・アクセプター材料の機能解明
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22K05038
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
島崎 智実 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科(八景キャンパス), 准教授 (40551544)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 有機薄膜太陽電池 / NFA / 密度汎関数法 / DFT / 誘電率依存 / 励起状態 / 色素 |
Outline of Annual Research Achievements |
有機薄膜太陽電池はシリコン等の無機系太陽電池を代替・補完するものとして注目を集めている。有機薄膜太陽電池は、シリコンなどの無機太陽電池と比較して簡便かつ安価に作成できることに加え、軽量・フレキシブルなどの特性を生かした新たな太陽電池の活用が期待できるためである。ただし、有機薄膜太陽電池の実用化にはエネルギー変換効率のさらなる向上が強く望まれている。エネルギー変換効率向上のためにNon Fullerene Acceptor (NFA)の活用が近年注目を集めている。現在、NFAを用いることによって有機薄膜太陽電池のエネルギー変換効率は(ラボレベルではあるが)実用化が見通せるまで向上してきている。 現在、NFAは有機薄膜太陽電池のエネルギー変換効率を向上させるためのブレークスルー技術として考えられており、多数の研究報告がなされている。しかしながら、有機薄膜太陽電池に対してNFA導入が性能向上のために果たしている役割についての理解は充分と言えない。NFAにはいくつかの機能があると考えられるが、それらがどの程度デバイスの性能向上に寄与しているかは明らかになっていない。そのため、NFAの活用についてはトライ&エラー的な側面が強いと言える。本研究は、有機薄膜太陽電池中でのNFAの振る舞いを明らかにすることにより、トライ&エラーを超えた有機薄膜太陽電池の材料開発の実現を目指す。そこで本研究では、NFAの振る舞いを調べるために第一原理シミュレーションを実施する。 NFAの電子状態を調べるために、本研究では励起状態の記述に優れた誘電率依存DFT法を用いる。本年度は、分子の励起状態をより良く記述するためには、誘電率依存DFT法の短距離相互作用の記述精度を向上させることが重要であることを明らかとした。研究結果は、論文としてまとめ査読付き国際誌で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、これまで我々が開発を行ってきた誘電率依存・電子密度汎関数(DFT)法および有機薄膜太陽電池デバイス・モデルを用いて、Non Fullerene Acceptor (NFA)の有機薄膜太陽電池中での振る舞いを明らかにすることを目指している。 NFAの振る舞いを調べるためには、その電子状態を詳細に知る必要がある。NFAは光を吸収して励起状態となる。そのため、第一原理シミュレーションによって NFAの励起状態を精密に扱うことが重要となる。そのため、本研究では、励起状態の記述に優れた誘電率依存DFT法を用いる。誘電率依存DFT法では、非局所的な交換相互作用(Hartree-Fock Exchange項)は材料の誘電率に反比例する。つまり、誘電率依存DFTの中では、汎関数の形はターゲットとなる材料に応じて変化する。このような誘電率依存DFTの特性が機能性分子の励起状態を記述することに適していることを明らかにしてきた。一方、最近の誘電率依存DFT法の研究から、分子の励起状態をより良く記述するためには、誘電率依存DFTの短距離相互作用の記述精度を向上させることが重要であること判明した。また、複数の色素分子に対して短距離相互作用に注目したDFT計算を実施することにより、実験値をより良く再現できることも明らかにした。これらの研究結果を論文としてまとめ、査読付き国際ジャーナル上で報告した(RSC Advances, 12, 34685, 2022, Chem. Phys. Lett. 802, 139740, 2022.)。さらに、短距離相互作用のより理論的な解析についても、現在、論文としてまとめている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、有機薄膜太陽電池のエネルギー変換効率を向上させるためのブレークスルー技術として、NFAに注目した研究が多数報告されている(例えば reviewとして、Joule 2, p621, 2018, Mater. Chem. Front. 5, p2907, 2021.)。国内の研究グループからもNFAに対する関心は高い。(Chemical Science, 11, p3250, 2020.)。よって、国内外でのNFAへの注目度は非常に高いと考えられる。しかし、有機薄膜太陽電池に対してNFAが果たしている役割についての理解は充分でない。本研究は、有機薄膜太陽電池中でのNFAの振る舞いを明らかにすることを目指す。そして、トライ&エラーを超えた有機薄膜太陽電池の材料開発の基盤を整備することを目標とする。そこで本研究では、NFAの電子状態を調べるために第一原理シミュレーションを実施する。 NFAの電子状態を調べるために、本研究では、励起状態の記述に優れた誘電率依存DFT法を用いる。2022年度では、誘電率依存DFT法による色素分子の励起状態記述能力向上のために短距離相互作用に注目した研究を行い、より良く色素の励起状態を記述することを可能とした。 2023年度では、NFAに用いられるような色素分子に対して開発した手法を適用することにより、その電子状態の詳細を明らかいにしていくことを予定している。
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Causes of Carryover |
コンピュータの購入を検討していたが、コロナや半導体不足のため、スケジュール的に2022年度中での購入が厳しい状況であったため、次年度以降に繰り越した。
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