2022 Fiscal Year Research-status Report
有機半導体薄膜におけるキャリア動力学の実時間観測と光スピントロニック制御
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22K05048
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
三浦 智明 新潟大学, 自然科学系, 助教 (80582204)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 有機半導体薄膜 / 過渡吸収 / 過渡光電流 / ドリフト移動度 / スピンダイナミクス / 電子正孔対 / 磁場効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
有機半導体薄膜の光スピントロニック制御へ向けた基礎研究を行った。色素を添加した導電性高分子薄膜のパルス光照射によって生じる電荷(電子と正孔)に関して、吸光度(電荷濃度に比例)と電流(電荷の濃度と流れやすさに比例)の時間変化を同時計測する独自の先端装置を用いた研究を進めた。電荷スピンの量子力学的運動を磁場によって制御し、その効果を観測したところ、電荷の濃度にのみスピントロニック制御が可能であり、移動度(流れやすさ)にはほとんど効果が見られないことが分かった。濃度に対する磁場効果は、電荷対の再結合(電子と正孔がくっついて消滅すること)に対する磁場効果として従来理論で説明できた。有機半導体の電流に対する磁場効果機構に関して、複数の機構が提案され議論されてきたが、本手法により決定的な結論が得られることが明らかとなった。 また、電荷の運動の温度変化を詳しく調べたところ、電流は低温で顕著に減少したのに対し、再結合の速度には顕著な温度依存性が観測されなかった。電流も再結合も電荷が動くことによって生じているのにも関わらず、顕著な違いが観測されたことは興味深い。これは再結合と電流で見ている「運動」の距離や時間のスケールが異なることを意味している。つまり、再結合が起こるような短距離(数nm程度)では高分子鎖内を高速に(数ns~数マイクロ秒)運動できるが、電流は5 マイクロメートルの長距離を電場でゆっくりと運動する様子を見ているため、途中に存在する「トラップ」に陥り、抜け出すときに熱活性化が必要であることを意味している。トラップの密度は成膜条件によって制御できることも分かり、今後トラップの詳細についてさらなる研究を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
従来から行っている色素ドープ高分子薄膜を用いた光スピントロニック制御に関して、重要な知見を得ることができた。特に、成膜条件による制御は当初予期していなかった成果であり、今後のさらなる展開が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
高分子薄膜のトラップサイトに関して、X線回折、蛍光分光等の手法を用いて、構造・電子的相互作用の観点から詳細を明らかにする。これと並行して、有機薄膜太陽電池材料における光スピントロニック制御に向けて、研究を進める。
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Causes of Carryover |
購入する予定であった測定装置に関して再検討を行っているため。
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