2022 Fiscal Year Research-status Report
超共役的反芳香族化合物の構造的特徴を活かした三次元芳香族性の新展開
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22K05078
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
桑原 拓也 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 講師 (60768654)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 反芳香族性 / スルースペース相互作用 / アニオン性 |
Outline of Annual Research Achievements |
反芳香族化合物同士が互いに面と面を向かい合わせて相互作用すると、積層芳香族性が発現するという理論予測がなされたが、依然として積層芳香族性の実験研究例は限定的である。また、これまでの積層芳香族性の実験研究はノルコロールなどの中性の系に限られている。そこで本研究では、電荷をもつ系でも積層芳香族性が発現するか否かを明らかにすることを目的とした。具体的には、我々の研究グループが独自に研究してきた負電荷をもつ超共役的反芳香族化合物「シレピニルジアニオン」同士の積層構造を構築し、積層芳香族性の発現を試みた。 今年度はシレピン同士をケイ素-ケイ素で連結したビスシレピンの還元反応を行うことで、テトラアニオン等価体の合成・単離に成功した。この二量体は二つのシレピン環で2つのリチウムカチオンをサンドイッチした構造を有し、シレピン環同士が互いに相互作用可能な位置関係にあることが明らかとなった。この二量体と単量体の1H NMR化学シフト値および芳香族・反芳香族性の評価に広く利用されているNICS値を比較したところ、二量体における反芳香族性が低下していることが明らかとなった。また、分子軌道において、各シレピニルジアニオンのHOMO同士が反結合性相互作用した分子軌道および結合性相互作用した二種類の分子軌道が確認された。以上より、二量体においてアニオン性の反芳香環同士は相互作用することでその反芳香族性を弱める、という知見を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の最終目標は、「アニオン性反芳香環同士を近接させると芳香族性が発現するか否か」を明らかにすることであるが、それに対する暫定的な解、すなわちシレピニルジアニオン同士が相互作用することでその反芳香族性を低下させる、という知見を得ることができた。以上より、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の研究から、アニオン性反芳香環同士もスルースペース相互作用によりその反芳香族性を弱めることがわかったが、積層芳香族性が発現するには至らなかった。その主な原因は、負電荷をもつ環同士が近接すると電荷反発が生じるため、反芳香環同士の相互作用が弱いためであると考えた。そこで今後は、電荷反発を低減させるような分子設計に基づき新たなシレピニルジアニオンを合成し、積層構造を実現する。 具体的には、電気陰性度の最も大きなフッ素をシレピン環上に導入した系で研究を遂行する予定である。
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Causes of Carryover |
予定していたよりも学会参加数が少なく、旅費にかかる費用が削減されたため。 繰越金は来年度以降の学会参加費または消耗品費に流用する予定である。
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