2022 Fiscal Year Research-status Report
低バンドギャップをもつ螺旋分子の創成および機能創出
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22K05080
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
廣戸 聡 京都大学, 人間・環境学研究科, 准教授 (30547427)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ヘリセン / 共役拡張 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、近赤外領域で優れた発光を示すヘテロヘリセンやaza[5]heliceneをベースとした新しいヘリセン色素の合成を目的としています。今年度はaza[5]heliceneを用いた共役の拡張を試み、その多量化による影響を検証しました。 我々は、すでに報告しているaza[5]heliceneの位置選択的脱シリル化反応を行うことで、外側のシリル基をHで置換した生成物を得ることができました。さらに、酸化的ホモカップリング反応を行うことで、二量体を良好な収率で得ることができました。この結果を踏まえて、位置選択的脱シリル化反応を行い、最も外側のシリル基をHで置換した生成物を良好な収率で得ることに成功しました。これを利用して、四量体の合成にも成功しました。さらに、UV吸収スペクトル測定を行った結果、多量化により吸収スペクトル末端の長波長シフトが観測されました。また、発光スペクトルも同様の傾向が見られ、共役の拡張が示唆されました。さらに、多量化に伴い発光量子収率の増大も観測されました。この現象の原因について、蛍光寿命測定や理論計算を行い解明しました。多量化により発光の増大したヘリセンは、報告がなく、新たな近赤外発光ヘリセンの設計指針の確立につながる重要な成果です。さらに、キラル発光特性についても評価を行い、多量体においても良好なキラル発光特性を示すことが明らかになりました。これは、医療用途などにおいて有用な性質であり、今後の応用展開に期待が寄せられます。 以上の成果から、本研究で開発した近赤外発光ヘリセンは、高い発光量子収率を有し、新たな発光材料として大きな可能性を秘めていることが示唆されました。今後の応用展開に期待が寄せられます。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は近赤外吸収および発光色素を生み出す戦略の一つである、共役拡張について研究を進めた。その結果、多量化という共役拡張により吸収および発光スペクトルの長波長シフトを達成した。さらに、多量化による発光強度の増大も明らかにした。このことは、従来多量化により減衰すると考えられてきた、および報告されてきた結果と異なるものであり、優れた発光を示すヘリセンの分子設計に新たな知見をもたらすものである。この結果は当初の計画通りに進展した結果と言えるものであり、進捗状況として順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究では、共役拡張という近赤外色素を得るための戦略の一つである多量化による分子合成を行い、目的を達成することができました。しかしながら、共役拡張による多量化は、分子内の共役限界や反応条件の制約から、収量の少なさなどの課題も浮き彫りになっています。 今後は、当初の研究計画で示した他の戦略を進め、より収量が多く、かつより近赤外領域に優れた発光を示すヘリセンの合成を目指します。ヘリセンは、その構造から高い発光量を持ち、近赤外領域でも発光が可能なため、医療分野での応用に期待されています。また、水溶性の付与も行い、実際に水溶液中における蛍光イメージングに適用できるかの研究を推進していきたいと考えています。 この研究においては、合成に使用する化合物の種類や反応条件の最適化が重要な課題となります。反応条件の最適化には、化学反応の速度や収率の向上、副反応の抑制などが必要です。また、水溶性の付与においては、化合物の疎水性や溶解度などが影響を及ぼすため、様々な改良を行いながら水溶性の付与を進めていく必要があります。 今後の研究によって、より効率的かつ高品質な近赤外色素の合成が可能になることで、医療分野において新しい治療法や診断法が生まれる可能性があります。また、水溶性の付与によって、より広範な分野に応用が可能になることが期待されます。この研究を通じて、医療や工業分野において貢献することができると期待されます。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響により昨年度から延長した別のプロジェクトで使用した機器を流用することができ、本プロジェクトで購入する予定だった器具等の購入費を大幅に削減することができた。また、使用する予定であった旅費については研究の成果の内容により参加学会を変更し、近隣の会場に変更になったため、計上しなかった。一方で、本研究の進展により、新たな戦略による研究を遂行する必要があることが判明した。この研究では新たな試薬や器具の購入の必要が予想されるため、前年度に使用する予定であった資金を次年度に流用することでまかないたいと思っている。
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