2022 Fiscal Year Research-status Report
多置換化されたジインダセノクリセン型バッキーボウルの液相合成と物性評価
Project/Area Number |
22K05086
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
岩澤 哲郎 龍谷大学, 先端理工学部, 教授 (80452655)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | バッキーボウル / ジインダセノクリセン / ジベンゾクリセン / 液相合成 / 非平面性パイ共役系 / 多環芳香族炭化水素 |
Outline of Annual Research Achievements |
目的物であるジインダセノクリセン骨格の前駆体の合成を達成した。この前駆体は、ジベンゾクリセンの二つのベイ領域に五員環を有し、フィヨルド領域に複数の臭素原子やメトキシ基を有したジインデノクリセン型の化合物である。複数の分岐アルキル鎖を有しているため大変溶けやすくなっており、合成中間体の調製等において全く問題ない溶解性を示す。構造の確認は、分光学的なスペクトルだけでなく、単結晶のX線結晶構造解析も利用して決定した。フィヨルド領域の臭素原子を活性化して分子内で閉環することができれば、最終的に、目的とする先例のないバッキーボウル分子が得られることから、この前駆体は本案にとって重要な成果となる。ベイ領域に五員環を形成した後に、立体的な歪みやパイ共役系の非平面性などの要素を乗り越えて、フィヨルド領域に五員環を形成できるのかどうか、重要な問いを用意できた。一方で、この前駆体の合成を達成するまでに要した工程数は、市販フルオレノン原料から数えて、およそ10工程であった。その工程の途上で新規化合物の合成を実施・達成した。例えば、ヒドロキシフルオレノン誘導体へのアルキル化やハロゲン化を位置と数をただ一つに定める反応条件を見出したり、ジベンゾクリセン誘導体のベイエリアに取り付けた臭素原子を活性化して増炭する反応条件を見出したり、その増炭後に分子内環化による五員環形成の方法を見出したり、新しい反応性を明らかにすることができた。また、フィヨルド領域の二重閉環反応は難しいが、片側だけの閉環反応は、低収率ながら進行することを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
目標としていた分岐アルキル鎖の導入と、四臭素化前駆体の合成を達成することができたので、おおむね想定通りに進捗したと考えている。特に、ヒドロキシフルオレノン誘導体に複数の分岐アルキル鎖を位置特異的に取り付けること、および、ハロゲン原子も一つだけ位置特異的に取り付けることができたことの研究進捗全体に対する影響は大きかった。このフルオレノン誘導体は亜リン酸トリアルキル溶媒中で円滑に同種二量化を起こし、ベイ領域に臭素原子を有する易溶性ジベンゾクリセン体を得る上で決定的な役割を果たした。ただし、この臭素原子の周りは立体障害が大きいために、リチオ化後の求電子試薬との反応による増炭については労を要した。この労を軽減するために、フルオレノンにあらかじめ炭素原子を取り付ける方策の開発にも取り組み、量的供給を実現する高生産性スキームの確立に道筋をつけることができた。一方で、フィヨルド領域の閉環について、臭素化を介さずにショール反応等による直接的な変換を種々数多く試みたが、現在までのところ全くうまくいっていない。そのため、確実に臭素原子を導入するために、メトキシ基のメチル基を保護基とみなして脱着を行う手法に沿って、四つの臭素原子をフィヨルド領域に導入した。多段階合成になるが、確実に四臭素化前駆体を得ることができた。一方で、この臭素の活性化について、金属試薬を用いた方法を検討中である。基本的にホモカップリングを狙いとした活性化を目指して鋭意進捗を図っているが、現在までのところ、触媒的に進行する条件を見出せていない。どうしても臭素原子が取れたり、片方だけが架橋されたりした化合物が多く生成してしまう。十分な量の前駆体を立ち上げて、さまざまな閉環条件を探す必要を感じている。
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Strategy for Future Research Activity |
四臭素化前駆体を十分な量だけ立ち上げることを推進の方策とする。フィヨルド領域における四つの臭素原子を触媒的に適切に活性化して、分子内で炭素ー炭素結合を形成するための反応条件の検討を中心に進める。最終目的物まであと1または2工程と迫っているから、前駆体自体をある程度の量だけ調製して、種々の反応条件を試してアウトプットを比較検討することがポイントであると考える。例えば、ニッケル触媒を用いたり、典型的なラジカル反応剤による活性化をおこなったり、パラジウム試薬とは異なるアプローチをとりたい。量の立ち上げには、リチオ化を経ずに増炭する方法、例えばシアン化銅を利用するローゼンムント・フォン・ブラウン反応を中心に据える。一方、ベイ領域を閉環した後にフィヨルド領域を閉環することがどうしても難しい場合には、代替法を取ることも推進方策と考える。すなわち、先にフィヨルド領域を閉環し、その後にベイ領域を閉環する方策である。当研究室は、ジベンゾクリセンのフィヨルド領域に結合した四つの臭素をパラジウム試薬で活性化して閉環し、ジインデノクリセン型バッキーボウルを合成した経験を有する。したがって、フィヨルド閉環型ジインデノクリセンのベイ領域に五員環形成のための増炭をあらかじめ行っておくか、または、フィヨルド閉環型ジインデノクリセンにビルスマイヤー試薬等を作用させてベイ領域に増炭を図るか、どちらかの方策を取る必要がある。他の別法としては、二つのフィヨルド領域を一度に架橋しようとせず、段階的に架橋する方法に切り替える方法も考慮したい。これらの方法の生産性の見通しが弱い場合には、根本的にジベンゾクリセンに置換する置換基の数や位置を変更したものを骨格の題材とし、ベイ領域とフィヨルド領域の活性化に臨む。
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Causes of Carryover |
(理由)分岐アルキル鎖やハロゲン原子をヒドロキシフルオレノン誘導体に位置特異的に、置換数も含めてほとんど完璧に制御する反応を比較的時間や労を要することなく、進めることができた点が大きな要因である。得られた誘導体は全く問題のない溶解性を示したため、その後の合成中間体の工程も比較的円滑に進めることができた。また、禁水条件を要するリチオ化によるベイ領域臭素の活性化を避ける合成法の開発に臨んだこともその要因と考える。さらに、リチオ化による活性化や求電子試薬との反応性を見積もる実験を比較的丁寧に進めて、ジベンゾクリセンのベイ領域の立体障害を理解しようと努めたことも要因と考える。(使用計画)次年度使用額が生じたこれら状況を踏まえて、本資金を最終目的物の合成に向けたフィヨルド領域の活性化に投じる。特に、遷移金属試薬等やラジカル反応剤を用いたホモカップリングの開発と探索に力点を置く。ベイ領域に五員環が二つあるために、分子全体として大きく歪んだ構造を取っており、フィヨルドの閉環は元来難しいと考えられる。活性の高い金属試薬類やラジカル反応剤を用いて、まず片側を架橋させることに注力したい。一方で、生産性の見通しが立ちにくい場合には、ジベンゾクリセンに結合する置換基の数や位置を根本的に変更したものを骨格の題材とする研究に資金の投入を実施する。
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