2022 Fiscal Year Research-status Report
金属-配位子協働効果を利用した「水素貯蔵」機能の発現と触媒反応への応用
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22K05122
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
中島 裕美子 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 研究チーム長 (80462711)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 遷移金属錯体 / 金属-配位子協働効果 / 水素活性化 / 触媒反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
医薬品や電子材料、高機能高分子材料など、我々の身の回りの様々な化成品の精密合成を可能とする金属錯体触媒の開発研究は、これまで化学工業界に数々の革新をもたらしてきた。金属錯体触媒開発における産業界ニーズは未だ留まるところを知らず、各種材料の超高機能化、環境負荷の低減、資源循環など、近年さかんに叫ばれつつある多様な社会的ニーズを満足させるべく、さらなる技術革新は急務である。このような背景のもと、最近新しい金属錯体触媒の反応場設計コンセプトとして「金属-配位子協働効果」が注目を集めている。金属-配位子協働効果は、金属と配位子の協奏的な働きにより、触媒反応における重要な素過程である「結合切断」および「結合形成」を効率よく達成する。本研究では、これまでに所属研究グループで見出した新しい金属-配位子協働効果である「水素貯蔵」機能を用いて、新規触媒反応の開発に取り組む。 2022年度は、「水素貯蔵」機能を示す四座PNNP配位子に支持されたコバルト錯体が、アセチレン類およびエステルの水素化に有用であることを見出した。具体的には、エステルの水素化反応に関しては、コバルトからの基質への電子移動を鍵として進行し、エステルのβ位C-O結合が切断されることを明らかにした。本反応を応用することで、エステルの水素化分解によるアルカン生成を達成した。さらに、同様の触媒系を用いることで、ジフェニルアセチレン類のシス選択的部分水素化が進行することも見出した。 以上の成果に加えて、シクロペンタジエニルに支持されたイリジウムアミド錯体が、アミド酸素を反応点とする新しい金属-配位子協働効果により、ヒドロシラン類のSi-H結合切断を達成することを見出した。さらにこれを利用することで、アルデヒド化合物のヒドロシリル化による触媒的アルコール生成を達成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では最終目標として、強固な結合切断を伴う不活性分子の資源利用やポリマーの解重合など、学術的および工業的観点の両面から重要な課題である、種々の高難度触媒反応の達成を目指す。2022年度の取り組みでは、最終目標の達成に向けて必要となる基盤技術を見出すことができた。以上の理由から、目標達成に向けて順調に進展していると評する。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで報告されている、遷移金属錯体を触媒とするエステル類の水素化分解では、一般的に金属ヒドリドが鍵中間体として、α位炭素―酸素結合切断により進行する。これに対して、PNNP配位子に支持されたコバルト錯体を触媒とするエステル類の水素化分解では、先に示した通り、エステルのβ位炭素-酸素結合切断が進行する。本反応は、重要化成品原料であるエステル類の新しい分子変換反応手法としてきわめて興味深い。 2023年度以降は、本反応の詳細なメカニズムの解明に取り組む。予備検討により、速度論解析を行うと、本反応においては、コバルトから基質への電子移動が律速段階に関与していることが示唆されている。そこでまず、様々なエステル類の水素化分解を検討し、基質の電気化学的性質と結びつけることで反応メカニズム理解に取り組む。得られた知見をもとに反応性向上に取り組み、最終的にはポリエステル繊維の水素化分解など、学術的および工業的観点の両面から重要な課題である、種々の高難度触媒反応の達成を目指す。
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Causes of Carryover |
予定していた新規のガラス器具等の購入必要性はなく、所有する器具にて実験を遂行できた。2023年度に、当該科研費の遂行に関わる実験設備の整備が必要であるため、この目的に助成金を使用する。
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