2022 Fiscal Year Research-status Report
Coordination chemistry of stronger sigma-donating N-heterocyclic silylenes than carbenes
Project/Area Number |
22K05138
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
中田 憲男 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (50375416)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | N-ヘテロ環状シリレン / σ-ドナー / イミノホスホナミド / シリレン錯体 / スタンニレン / プルンビレン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、研究代表者らが合成した新規なN-ヘテロ環状シリレンであるイミノホスホナミドシリレン1の配位化学と新しい反応性の解明を目的としている。1は、従来の安定カルベンやシリレンを凌ぐ強力なσ供与性を有することが実験的・理論的検証により明らかとなっており、その反応性を含めた性質の確立はケイ素化学をはじめとする典型元素化学において重要な知見をもたらすことができる。令和4年度は、1の基本的な配位挙動を検証するため、種々のカルボニル遷移金属錯体や金(I)錯体の合成を検討した。興味深いことに、立体的に嵩高いDip基(2,6-ジイソプロピルフェニル基)をイミノホスホナミド配位子に導入したシリレン1bとアニオン性マンガンカルボニル錯体との置換反応では、ケイ素-マンガン間に二重結合を有するシリレン錯体4の生成を見出した。また、金(I)錯体([AuCl(SMe2)])とシリレン1aとの反応ではシリレンが金中心にσ配位したシリレン-金錯体5が得られた。 本研究で使用しているイミノホスホナミドは、低配位ケイ素化学種の高周期類縁体の合成にも展開できる。すでに、ゲルマニウムやスズについては対応するゲルミレンやスタンニレンの合成を確立しているが、本年度は最も重い14族元素である鉛類縁体の合成についても実施した。結果として、対応するクロロプルンビレン6が合成でき、X線構造解析の結果、6は鉛上の塩素原子を介してポリメリック構造を有していることがわかった。さらに、6の塩素引き抜き反応から二配位のカチオン性プルンビレン(プルンビリウミリデン)7の生成を見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
t-ブチル基を有するイミノホスホナミドシリレン1aと鉄あるいはマンガンカルボニル錯体との反応は1分子の一酸化炭素の脱離を伴って対応するシリレンカルボニル錯体2および3が生成した。一方、アニオン性カルボニル錯体であるK[Mn(CO)5]-とシリレン1との反応では、1aの場合は複雑な混合物を与えたが、より嵩高い1bの場合はケイ素-マンガン間に二重結合を有するシリレン錯体4を高収率で与えた。4の29Si NMR測定では、特徴的な低磁場シフトしたシグナルが171.4 ppmに観測され、ケイ素-マンガン間に不飽和結合の存在が示唆された。4のX線構造解析において、ケイ素-マンガン間の距離は2.3114(9)Åであり、これまでに報告されている同二重結合の距離よりもわずかに短い値であった。 一方、イミノホスホナミド配位子を導入したクロロプルンビレン6についても、対応するリチウムイミノホスホナミドと塩化鉛(II)との反応から合成することができた。X線構造解析の結果、6は鉛上の塩素原子を介してポリメリック構造を有しており、著しく伸長した鉛-塩素結合を有していることが明らかとなった。このような鉛-塩素結合の伸長は、適切な試薬による塩素引き抜き反応からカチオン性プルンビレンの生成を期待するものであり、実際にNa[B(C6F5)4]を用いた6の塩素引き抜き反応を行った。結果として、対応するプルンビリウミリデン7の生成を各種NMRスペクトルならびにルイス塩基との反応により明らかにした。7は二配位のプルンビリウミリデンとして3例目であったが、ルイス酸触媒としてカルボニル化合物のヒドロホウ素化反応への利用を初めて見出した。7はベンゾフェノンに対して1 mol%、ベンズアルデヒドに対してわずか0.1 mol%でピナコールボランのヒドロホウ素化反応を触媒し、対応するボロン酸エステルを定量的に与えた。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度においても、引き続きイミノホスホナミドシリレンの遷移金属錯体に対する配位挙動の解明を実施する。その中で、前年度合成に成功したシリレン錯体4の反応性の解明を目指していく。4のケイ素-マンガン間の二重結合はその不飽和性だけでなく、元素間の分極に起因した反応性についても興味がもたれる。また、水素や亜酸化窒素、二酸化炭素などの小分子との反応についても検討し、4の系統的な反応性を明らかにしていく。 一方で、プルンビリウミリデン7の合成を参考に、シリレン1においても置換している塩素原子の引き抜き反応を検討し、対応するシリリウミリデンの生成についても検討する。イミノホスホナミド配位子により安定化されたテトリウミリデンは、カチオン性テトリレンの構造寄与だけでなく、ホスホニウム部位を有する環状ジアミノテトリレンとしての構造寄与として描くことができる。そのため、一連のテトリウミリデンはルイス酸部位(求電子性)とルイス塩基部位(求核性)を兼ね備えたアンビフィリックな性質が期待でき、新たなドナー・アクセプター型配位子として利用できる。そこで、次年度では合成したテトリウミリデンの錯形成反応についても実施を試みる。
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