2022 Fiscal Year Research-status Report
フラーレン・金属内包フラーレンのHPLC分離機構の解明
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22K05156
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
秋山 和彦 東京都立大学, 理学研究科, 助教 (50360441)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 金属内包フラーレン / 高速液体クロマトグラフィー / 放射化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は核医学的応用が期待されている放射性同位元素Ac-225(アクチニウム-225)の同族元素であるランタノイド元素を内包した金属内包フラーレン化学種について、ラジオクロマトグラフィー法によって内包金属原子であるランタノイド元素がどのような影響を与えているかを明らかにすることを目的としている。今年度は一連のランタノイド元素のうちLa、Ce、Pr、Tb、Dy、Ho、Erの7元素についてLn@C82(Lnはランタノイド元素を示す)を合成し、室温、0℃、-10℃の3点について溶離挙動を調べた。あらかじめ単離を行ったLn@C82を京都大学複合原子力科学研究所KURにて熱中性子照射を行い、展開溶媒をトルエンとしてピレニル基をベースとした固定相を持つBuckyprepカラムにLn@C82を展開した。展開試料は測定の都合上短半減期核種で分析を行うLa、Pr、Dy、Ho、Erと長半減期核種で分析を行うCe、Tbを分けてそれぞれHPLC展開した。溶出液を室温については20秒ごと、0℃、-10℃については1分ごとに分画し、各分画から放出されるγ線を測定して各展開温度におけるLn@C82の溶離曲線を得た。この溶離曲線から各Ln@C82の保持時間を決定し、吸脱着エンタルピーの導出に成功した。しかしながら長半減期核種を用いて導出されたCe及びTbの吸脱着エンタルピーは短半減期核種を用いて導出された他のランタノイドと比べ非常に大きな値を示したことから再現性の確認を行う必要があったため、半減期の長短に依存しない実験方法によって再度La、Tb、Dyに関するデータを再取得した。この実験により長半減期核種を用いて得られた-10℃のTbの保持時間が過大に評価されていることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今回、実験を行う際にHPLC展開した試料の溶出成分を20秒及び1分ごとに分画し、照射を行ったKURですぐさま測定を行った。これは短半減期核種(特にDy-165:半減期2.33時間)に対応して照射後3~4時間以内にすべての試料の測定を終え、尚且つ分画した試料のロスを防ぐための対策であったが、長半減期核種による分析を要するCe(Ce-141:32日)やTb(Tb-160:72.3日)については試料を持ち帰り別途実験を行う必要があった。しかしながら実験環境の違いによる測定温度の系統的な誤差や展開溶媒のグレードなどの違いなど、様々な要因によって予想に反した溶離挙動となる事が明らかとなった。そこで実験の方法論を見直し、、照射試料数は増えるものの事前にHPLC分離を行うと共に試料のロスに十分注意したサンプリングを行い、ろ紙へ試料を吸収・乾燥させることで本実験の問題点を解決することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今回、熱中性子放射化に先んじてHPLC分離を行い、溶出成分をろ紙に滴下・乾燥した試料を放射化することで分析に使用する核種の半減期によらない実験の方法論を確立することができた。次年度以降の実験においてはこの実験手法によって研究を進めていく予定である。 これまで展開溶媒をトルエンとしてピレニル固定相におけるLn@C82の吸脱着エンタルピー⊿Hや吸脱着エントロピー⊿Sを得ることができた。一方で展開溶媒の違いによる⊿Hや⊿Sの変化などについてはいまだ明らかになっていない。加えてピレニル固定相と比べて分散相互作用が強く表れるペンタブロモベンジル固定相についても実験を行いピレニル固定相との比較検討から、金属フラーレンの持つ双極子モーメントやイオン化エンタルピーに関する情報が得られると考えている。2023年度以降についてはC60、C70や高次フラーレンなども用いつつ展開溶媒としてフラーレン分離に用いられるクロロベンゼンを用いることで、溶媒による違いがどのように保持時間の違いに反映されるかを検討する。これまでの実験においてトルエンを展開溶媒とした上記フラーレンのピレニル固定相及びペンタブロモベンジル固定相における保持時間や⊿Hや⊿Sについてはすでに取得している。クロロベンゼンはトルエンのメチル基を電子吸引性の高い塩素で置換した構造をしており、トルエンと比較するとより大きな双極子モーメントを持つ溶媒である。このクロロベンゼンを展開溶媒として得たデータとトルエン展開で得られたものを比較することによって、⊿Hや⊿Sが溶媒によってどの程度影響を受けているのか確認する。この結果を踏まえて、今年度はピレニル固定相におけるクロロベンゼン展開、ペンタブロモベンジル固定相におけるトルエン展開を行うこととする。また、熱中性子放射化において塩素は非常に高感度であるため、その対策も整える。
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