2022 Fiscal Year Research-status Report
鉄化合物を用いた環境適合型超低コスト・高エネルギー密度スーパーキャパシタの創製
Project/Area Number |
22K05189
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
野原 愼士 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (40326278)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | スーパーキャパシタ / Mn-Ni酸化物固溶体 / Fe化合物 / 非対称キャパシタ |
Outline of Annual Research Achievements |
環境適合型超低コスト・高エネルギー密度スーパーキャパシタの構築に向けて、文献から最適な負極の候補をオキシ水酸化鉄(β-FeOOH)とマグネタイト(Fe3O4)に絞り、予備実験においてこれらを合成し、特性評価を行った。その結果、比容量の点で明らかにβ-FeOOH電極が優れていたため、この電極のさらなる高性能化(高容量化、レート特性およびサイクル特性等の向上)を図った。 導電性の向上を重視し、Co化合物の添加がβ-FeOOH電極の性能に及ぼす影響について検討した。CoCl2あるいはCo(NO3)2をFe:Co=9:1(モル比)になるように前駆体溶液に添加し、水熱合成によりTiメッシュ上に試料を析出させることで電極を作製した。 X線回折において、作製したいずれの電極も基本的なβ-FeOOHの回折ピークを示し、Co種のピークはほとんど観測されなかった。このことから、Co添加により析出物の基本構造は変化せず、CoによるFeの部分置換あるいは非結晶のCo化合物の生成が示唆された。また、SEM観察においてもいずれの場合も長さ約1μmの針状粒子が凝集した析出物が観測され、Co添加による析出形態の大きな変化は見られなかった。 1 M LiCl水溶液中のサイクリックボルタモグラムにおいて、いずれのCo添加β-FeOOH電極でも無添加のものに比べ、明らかに掃引方向の折り返しでより急激な電流応答が観測され、Co添加により導電性の向上が示唆された。比容量およびレート特性の点で、合成時にCoCl2を添加した電極が最も優れていることがわかり、さらにその電極の3000サイクル後の容量維持率が約85%であり、無添加電極の約58%を大きく上回った。これはCo添加による導電性ネットワークの生成とその良好な維持を示唆するものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
R4年度は当初の研究計画の通り、最初の大きな課題項目である「Fe化合物の選定、合成、基本特性の評価」に取り組み、水熱合成条件および前駆体溶液組成の検討によりβ-FeOOH電極の比容量が増大しただけでなく、キャパシタ材料に特に強く要求されるレート特性およびサイクル特性の向上も達成できた。これは、新規で高性能な環境適合型超低コスト非対称キャパシタの実現に向け、おおむね予定通りR5年度以降の計画につながる成果である。 しかし、上記の研究成果が出る時期が予定より少し遅れ、性能向上の原因を究明すべく、一部の詳細な構造解析などが行えていないことと、それにより学会等での成果発表につながらなかったことから、総合的にやや遅れていると判断する。その分は、R5年度以降に組み入れ、本研究課題を加速させ遂行していくことにより補う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
R5年度は本研究課題の2つ目の柱である「非対称キャパシタの構築、特性評価」を中心に行う。具体的には、R4年度に開発したCo添加β-FeOOH電極を負極、我々がすでに開発しているMn-Ni酸化物固溶体電極を正極とし、電解液は中性水溶液(LiClなど)を使用し、非対称セル(開放簡易型)を組み立てる。そして、サイクリックボルタメトリーおよび定電流充放電試験によりセルの上限電圧、比容量、レート特性、クーロン効率、セル抵抗などの基本的なキャパシタ特性を評価する。基本特性が優れているものについては、自己放電特性(開回路電圧、リーク電流)の測定を行う。一方で、充放電試験前後の構造解析やインピーダンス測定などにより、特性向上あるいは性能劣化の原因を探り、さらなるセル性能向上への設計指針を得る。 R6年度は最後の柱である「非対称キャパシタの最適化」を行う。前年度までの知見を総合的に判断し、新たな改善策を立て、さらなる電極構造・組成、両極の活物質比、セル構造等の最適化を行い、セル性能の向上を図る。また、合成の前駆体溶液組成、Fe化合物の多元系化や他の材料との複合化、さらには電解液の種類・濃度等も含めて最適化を検討する。これを繰り返し実施し、優れた性能を示したものについて、より実用に近い密閉型コインセルでの性能評価も実施し、本キャパシタ系の実現可能性の実証を目指す。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由としては、まず物品費について、予定していた一部の構造解析、性能評価を行うことができず、試薬、セル部品等による消耗品費の使用が当初の予定よりも少なかったこと、そして旅費については、成果発表予定の学会の講演申込期限当時にまだ再現性、構造解析などのデータが不足しており、対面での成果発表を行うことができなかったためである。 次年度使用額は、次年度に研究協力者を予定より増員し、本年度に行えなかった実験も含めてより研究を加速して行い、試薬、セル部品等の購入により消耗品費として、学会での成果発表により旅費として使用する予定である。
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