2023 Fiscal Year Research-status Report
鉄化合物を用いた環境適合型超低コスト・高エネルギー密度スーパーキャパシタの創製
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22K05189
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
野原 愼士 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (40326278)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | スーパーキャパシタ / Mn-Ni酸化物固溶体 / Fe化合物 / 非対称キャパシタ / アニオン導電性高分子電解質膜 |
Outline of Annual Research Achievements |
R5年度は、オキシ水酸化鉄(β-FeOOH)負極およびMn-Ni酸化物固溶体(Mn0.75Ni0.25O)正極から成る非対称キャパシタの構築に向けて、β-FeOOH負極のさらなる高性能化を目指し、(1)異種元素との複合化および(2)最適な電解液の種類および濃度について検討を行った。一方、(3)上記キャパシタの擬似固体化による性能向上の可能性についても検討した。それぞれの概要および得られた主な知見は以下のようである。 (1)β-FeOOH負極への種々の金属元素(Cu、Al、Zn)の添加を検討した。β-FeOOHを合成する標準の前駆体溶液にそれぞれの金属元素をFeに対して5 at.%の比で添加し、水熱合成により電極を作製した。サイクリックボルタンメトリー(1 M LiCl水溶液中)の結果、特にAl種を添加した場合に電極の初期容量の大きな増大が見られ、さらにレート特性およびサイクル特性も向上した。 (2)非対称キャパシタで使用する予定のMn0.75Ni0.25O正極の高性能作動にはLiカチオンを含む電解液が必要であるため、種々のLi系電解液中でのβ-FeOOH負極の挙動について検討した。濃度1~4MのLiCl、Li2SO4、CH3COOLi電解液を検討した結果、β-FeOOH負極は2 M LiCl水溶液において最も良好な比容量およびレート特性を示した。 (3)上記非対称キャパシタへの応用の前段階として、アニオン導電性高分子電解質膜をMn0.75Ni0.25 O正極と活性炭負極からなる非対称キャパシタに適用し、その性能を検討した。その結果、3 M LiCl水溶液を吸収させたアニオン導電性高分子膜を用いた非対称キャパシタは、3 M LiCl水溶液のみを使用したものよりも良好な比容量、レート特性を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
R4年度およびR5年度において、最初の大きな課題項目である「Fe化合物の選定、合成、基本特性の評価」に取り組み、水熱合成条件および前駆体溶液組成の検討によりβ-FeOOH電極の比容量、レート特性、サイクル特性の点においてかなりの向上が達成でき、最適な電解質の種類、濃度も見出すことができた。さらに、非対称キャパシタの正極として使用予定のMn-Ni酸化物固溶体電極に対してアニオン導電性高分子電解質膜が非常に良好な適合性を示すことも明らかとなった。これらは次の段階の「非対称キャパシタの検討」に大いに役立つものである。 ただし、当初の予定ではこの「非対称キャパシタの検討」はR5年度から行う予定であったので、その点では少し遅れている。その理由としてはR4年度に得られたCo添加によるレート特性の向上の原因究明に予定よりも時間を要し、かつCo添加でそれ以上の特性向上が得られなかったことが挙げられる。しかし、R5年度はAl添加等でそれを超える高性能化が達成でき、さらに上記のようなその他の重要な知見も多く得られた。これらは非対称キャパシタの高性能化に向けて十分に期待が持てる結果であり、R6年度(最終年度)は研究課題を加速させて遂行することが可能であると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
R6年度(最終年度)は、これまでの研究実績を基に次の研究課題として予定していた「非対称キャパシタの構築、特性評価」、そして「その最適化」を行う。 具体的には、R5年度に開発したAl添加したβ-FeOOH電極を負極、我々がすでに開発しているMn-Ni酸化物固溶体電極を正極とし、高性能が期待できる中性水溶液電解質(LiClなど)を使用し、非対称セル(開放簡易型)を組み立てる。そして、充放電試験によりセルの上限電圧、比容量、レート特性、セル抵抗などの基本的なキャパシタ特性を評価する。基本特性が優れているものについては、自己放電特性の測定を行う。一方で、充放電試験前後の構造解析などにより、特性向上あるいは性能劣化の原因を探る。 これらの知見を総合的に判断し、新たな改善策を立て、さらなる電極構造・組成、両極の活物質比、セル構造等の最適化を行い、セル性能の向上を図る。そして、最も優れた性能を示したものについて、より実用に近い密閉型コインセルでの性能評価を実施し、本キャパシタ系の実現可能性の実証を目指す。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由としては、主として物品費について、予定していた一部の構造解析、セル性能評価を行うことができず、試薬、セル部品等による消耗品費の使用が当初の予定よりも少なかったためである。 次年度使用額は、次年度に研究協力者を予定より増員し、本年度に行えなかった実験も含めてより研究を加速して行い、試薬、セル部品等の購入により消耗品費として、また学会での成果発表により旅費として使用する予定である。
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