2023 Fiscal Year Research-status Report
テオフィリンパラジウム触媒の連続式リアクター化と不斉触媒への展開
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22K05198
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
貝掛 勝也 神奈川大学, 公私立大学の部局等, 教務技術職員 (20437940)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
金 仁華 神奈川大学, 工学部, 教授 (60271136)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | テオフィリン / パラジウム / 鈴木-宮浦カップリング反応 / 連続リアクター / キラル触媒 / 薗頭カップリング反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度に研究目的の一つである「テオフィリンパラジウム触媒の連続式リアクター化」の検討について、予定より成果を早めに収めたことから、本年度は二つ目の目標である「不斉触媒への展開」に早く着手することができた。また、研究深耕の観点からテオフィリンパラジウム触媒の薗頭カップリング反応への応用可能性について新たに検討を開始した。 不斉触媒の予察として、オレアノールテオフィリンとパラジウムとの錯体を作製し、その錯体の溶液CD測定により、パラジウムイオンの吸収帯に対応するCD信号が顕著に発現することを確認した。このことはオレアノール部位の不斉情報がテオフィリンを介してパラジウムに伝播していることを示している。キラル分子をテオフィリンへと導入した配位子を合成し、パラジウムと錯形成させることで、キラルパラジウム触媒を創成できることが判明した。今後の研究展開を俯瞰したとき、R体、S体の2種類のキラルパラジウム触媒が必要となることから、オレアノールテオフィリンに変えて、不斉炭素を有するR体、S体のスチレンオキシドとテオフィリンを反応させた新規の配位子(R,S-HPE-Th)合成に着手した。パラジウムと錯形成させたPd/R,S-HPE-ThのCD測定では、パラジウムイオンの吸収帯にCD信号が顕著に見られ、その信号は配位子単体に比べて反転したコットン効果を示した。キラルパラジウム触媒による、置換基の異なるアリルハライドとフェニルボロン酸を用いた鈴木-宮浦カップリング反応では、どの化合物も高収率で触媒し、高い触媒活性を示した。 一方、テオフィリンパラジウム触媒を用いた薗頭カップリング反応では、反応溶媒に水を用いた系において、助触媒の銅イオンを必要とせず高収率で目的物を合成できる銅フリーの環境調和型パラジウム触媒として機能することが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初、研究2年目までの検討課題と想定していた「連続式リアクターの検討」は、初年度で良好な結果を得たことから、当該研究結果を研究題目「Circulation reactor system for Suzuki-Miyaura coupling reaction with robust palladium-bistheophyllines catalyst in presence of NaCl」としてまとめ、オープンジャーナルのCatalysis communications誌へ、研究2年度始めに報告した。よって、当初計画より早くキラル触媒への展開検討に着手できた。キラル触媒検討は、キラル分割やエナンチオ選択性を志向した不斉合成を想定した場合、R体、S体の2種類のキラルパラジウム触媒が必要となるため、新規なR体、S体のテオフィリン配位子の合成検討に着手した。R体およびS体のスチレンオキシドを選択し、エポキシ部の開環付加反応によりヒドロキシフェニルエチル基をテオフィリンに導入したヒドロキシフェニルエチルテオフィリン(R,S-HPE-Th)を新規な不斉配位子として合成し、パラジウムと錯形成させたPd/R,S-HPE-Thを創成した。Pd/R,S-HPE-ThのCDからパラジウム吸収帯に対照的なコットン効果を示し、R体、S体のキラルパラジウム触媒を得ることに成功した。キラルパラジウム触媒を用い、置換基や置換位置の異なるアリルハライドとフェニルボロン酸を用いた鈴木-宮浦カップリング反応を行ったところ、高収率でカップリング反応が進行し高い触媒性能を有することが判明した。 加えて、テオフィリンパラジウム触媒を用いた薗頭カップリング反応では、水系溶媒で助触媒の銅イオンが不要な銅フリーの環境調和型パラジウム触媒として機能することを突き止め、薗頭カップリング反応にも拡張できることを明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
研究2年度の研究進捗は、「不斉触媒への展開」を検討するにあたり、R体、S体の2種類の新規なキラルパラジウム触媒であるPd/R,S-HPE-Thを合成し、そのCD測定からパラジウムに鏡像関係のキラリティが発現していることを確認した。そしてキラルパラジウム触媒を用いた鈴木-宮浦カップリング反応では、高収率でカップリング反応が進行し高い触媒性能があることを明らかにした。よって今後は、Pd/R,S-HPE-Thを用いた不斉合成についての詳細検討に着手する。不斉合成は、鈴木-宮浦カップリング反応において、軸不斉を生じるようなフェニルおよびナフタレン系化合物を用いてカップリング反応させ、得られた化合物のCD測定から不斉合成を評価する計画である。さらに、軸不斉のみならず、文献調査によりマイケル付加反応やアルドール縮合反応等の、他の特定反応に対するキラル触媒としての利用を目指す。各反応での利用可能性を評価し、利用可能であるならば反応条件の最適化を行う。並行して、得られたキラルパラジウム触媒の構造決定を明確にする予定である。単結晶化を検討し、単結晶X線結晶構造解析装置による化学構造を決定し、結晶学アプローチにより最適な不斉合成反応の基質選択を検討する。 加えて、テオフィリンパラジウム触媒を用いた薗頭カップリング反応においても知見を広げていく。研究2年度においてテオフィリンパラジウム触媒が銅フリーのパラジウム触媒として機能することが明らかになったことから、医薬、農薬、生理活性物質の合成を視野に、具体的には医薬品として利用されているインドールの合成を計画している。
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Causes of Carryover |
研究進捗が早まり、実体顕微鏡を購入する必要が生じたことから、前倒し請求により3年度予算から前倒しを行った。このことにより、結晶観察や結晶仕分け操作が可能となり研究の潤滑な遂行に大いに貢献している。実体顕微鏡購入後に残分が生じたことから、残分は次年度使用分として繰り越し、試薬購入に充てる計画である。
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