2022 Fiscal Year Research-status Report
熱エネルギーを利用した高分子材料ベースの人工知能の基盤技術の創生
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22K05225
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
浅川 直紀 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (80270924)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 高分子半導体 / パイ共役系高分子 / 生体模倣 / 確率共鳴 / 有機トランジスタ / ノイズ発生 / 熱ノイズ / 生体センサ |
Outline of Annual Research Achievements |
R4年度は、以下の二つの研究を行なった。 1) 神経シナプス可塑性の機能を模倣したサイドゲート型有機電界効果トランジスタの作製を行なった。そのために、両極性高分子電解質ゲル・ゾルを誘電膜として用いた有機電気化学トランジスタを作製し、興奮性および抑制性シナプス可塑性の機能の実装を実現することができた。さらに、可視光に対する光透過率が大きい高分子ゾルを用いたことにより、電界効果の印加条件下において、高分子半導体中に電荷キャリアが注入されることによる反射光のスペクトル変化を確認した。また、このスペクトル変化は、ゲート電極への電場パルスに追随する程度の時定数を有していた。このことは、本研究によって開発されたトランジスタが、トランジスタネットワークの電気伝導の時空間ダイナミクスの発生にとって重要な一歩であるのみならず、将来的な外部の光素子ネットワークのダイナミクスを変調するインターフェースの役割も担うことが可能となると予測される。これらのことは、体温といった熱ノイズを用いた生体模倣型のセンサの実現にとって重要となる。 2)パイ共役系高分子を用いたノイズ発生素子の開発を行なった。室温付近に構造相転移点を有するパイ共役系高分子において、構造ゆらぎとカップリングした負性微分抵抗現象を発見し、その現象が電気伝導度ゆらぎを発生することを見出した。さらに、この現象を利用した高分子半導体ノイズ発生デバイスの作製に成功した。このノイズ発生デバイスを用いることにより、確率共鳴現象を発現する高分子センサデバイスの実現が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、R4年度は、1)神経シナプス可塑性の機能を模倣したサイドゲート型有機電界効果トランジスタの作製と、2)パイ共役系高分子を用いたノイズ発生素子の開発を行なった。 1)において、まず、両極性高分子電解質ゲルを誘電膜として用いた有機電気化学トランジスタを作製した。しかし、予想に反し、高分子ゲルから半導体に効率良く電荷注入することができなかったため、ゲルを溶媒に溶解した高分子ゾルを用いてトランジスタを作製したところ、トランジスタ特性を示すデバイスをある程度の歩留まりで作製することに成功した。さらに、このトランジスタは、ゲート電極への電圧信号により、高分子半導体の可視光反射率の変調制御が可能であることを偶然見出した。以上のことから、サイドゲート型有機電解効果トランジスタによる多重検出センサの最小コンポーネントを創生することができたと考えられることから、1)の研究は、おおむね順調に進展していると言うことができる。 2)において、側鎖のアルキル基の長さを調節したパイ共役系高分子半導体を用いることにより、ある範囲の印加電圧条件下で、大きな電流ノイズが発生することを見出した。これは、アルキル鎖長を調節することにより、室温付近に構造相転移点をチューニングすることができたためであり、相転移に伴う構造ゆらぎとカップリングした負性微分抵抗現象が電気伝導度ゆらぎを発生すると考えた。さらに、この現象を長時間にわたって利用するための高分子半導体回路を構築し、ノイズ発生デバイスの作製に成功した。R4年度にこのノイズ発生デバイスの作製に成功したことから、2)の研究も、おおむね順調に進展していると言うことができる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、以下の研究に取り組む予定である。 1)高分子両極性電解質ゾルのみならず、ゲルにおいても電気化学トランジスタ特性を発現するデバイス作製条件を検討する。さらに、両極性電解質がトランジスタ特性に与える影響を調べ、興奮性および抑制性シナプス可塑性の機能発現との相関を明らかにする。 2)パイ共役系高分子半導体を用いたノイズ発生素子回路により発生するノイズ特性を明らかにする。特に、印加電圧によるノイズスペクトルの変化と、デバイスの温度によるノイズ発生と特性との相関を明らかにする。この相関の知見を基に、1)の研究で開発される電気化学トランジスタに対して、高分子半導体ノイズ発生素子のノイズを印加した確率共鳴現象の発現を試み、熱ノイズによる高感度高分子センサの開発を行う。 3)2)で開発される高分子半導体ノイズ発生素子のノイズを用いたノイズ駆動信号伝達デバイスを高分子トランジスタをベースとして構築し、ノイズによる信号伝達機構のデバイス実装を試みる。
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