2022 Fiscal Year Research-status Report
電流積分法と分子動力学・量子化学計算による新規の直流高分子絶縁材料の分子設計
Project/Area Number |
22K05243
|
Research Institution | Kanto Gakuin University |
Principal Investigator |
植原 弘明 関東学院大学, 理工学部, 教授 (00329210)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡本 達希 関東学院大学, 工学総合研究所, 研究員 (00371550)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 電流積分電荷法 / 分子動力学計算 / 量子化学計算 / 直流高分子絶縁材料 / 分子設計 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度の研究実績の概要は、以下のとおりである。 ①電流積分電荷法:6種類の高分子絶縁材料(LDPE、XLPE、PET、PI、PC、PEN)に対して、電界特性では1~100kV/mmまで、温度特性では20~80℃までの電荷蓄積特性を計測した。その結果、20℃では100kV/mmの電界を印加してもPET、PC、PENの試料内部に電荷が蓄積されることはなく、電極に誘起された電荷のみであることがわかった。一方、80℃ではPENを除くすべての試料で漏れ電流が支配的であった。この場合、電荷はLDPEおよびXLPEの無極性高分子絶縁材料が最も蓄積しやすく、PET、PI、PC、PENの有極性高分子絶縁材料では蓄積しにくいことがわかった。これらの成果の一部は、2022年10月に開催された国際会議(CEIDP2022)で口頭発表した。 ②分子動力学・量子化学計算:分子動力学計算に関しては、LDPEに酸化防止剤を約2wt%添加した計算は既に終了しているが、実際の電力ケーブル等では添加量が一桁少ない0.2wt%程度添加させていることが判明しているので、もう少し大規模計算が必要であると考えている。量子化学計算に関しては、LDPE、XLPE、PET、PI、PC、PENの重合度n=5までの量子化学計算をおこない、電界を印加すると、実質的なHOMO準位およびLUMO準位はフェルミ準位と同じ傾きで傾斜することがわかった。また、PENに焦点をあて、隣接する構成ポリマー(2,6-ナフタレンジカルボン酸(NDA)とエタン)が形成する深いトラップ準位(ホールトラップ、電子トラップ)がホールや電子の移動を妨げ、PEN内部での電荷蓄積を抑制することがわかった。これらの成果も、2022年10月に開催された国際会議(CEIDP2022)で口頭発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1年目(2022年度)に予定していた高電界印加時および高温時における電流積分電荷法による電荷蓄積特性の研究内容は達成できた。現在までの研究はおおむね順調に進捗していると考えられる。これは実験的アプローチである電流積分電荷法に使用するQ(t)メーターを今回の科研費応募で購入できたことにより、既存の1台とあわせてトータル2台体制で臨めていることが研究の進捗に大きく貢献している。 また、2年目(2023年度)に予定していたPEN、PC、PI、PETの量子化学計算に関しても、前回の科研費応募で購入できた2台とあわせてトータル3台のワークステーションによって重合度n=5までの計算は既に終了しており、静電ポテンシャル分布の広がり方まで解析できている。このため、当初の計画よりも研究は若干進捗しているかもしれない。 さらに、LDPEおよびXLPE単体試料における分子動力学計算は既に終了しており、このLDPEおよびXLPE単体試料に添加する予定の酸化防止剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、架橋分解残渣、電圧安定剤等の量子化学計算も既に終了している。2023年度はこれらの各種添加剤を添加したLDPEおよびXLPE試料の分子動力学計算に着手予定である。並行して、PET、PI、PC、PEN単体試料における分子動力学計算もおこなう予定であるが、2023年度の研究計画どおりに進捗しない場合は、PET、PI、PC、PEN単体試料における分子動力学計算よりも各種添加剤をLDPEおよびXLPE試料に添加した場合の分子動力学計算を優先する予定である。 なお、研究全体の方針としては、実験的事実の方が説得力があるため、分子動力学計算・量子化学計算による計算化学的アプローチよりも、電流積分電荷法による実験的アプローチによって電荷蓄積特性の評価を優先して研究する予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
2年目(2023年度)は、1年目(2022年度)の成果をもとに、高電界印加時および高温時においても電荷蓄積がほぼ見られない高分子絶縁材料であるPEN、PC、PI、PETの静電ポテンシャルの広がり方を、分子を構成する原子の電気陰性度の観点から評価し、直流高分子絶縁材料としてどのような化学構造が最適なのかについて検討をおこなう。 最優先課題は、電荷トラップ準位が深く、電荷蓄積しにくい化学構造を見出すことである。現在の電力ケーブルの母体絶縁材料に使用されているLDPEやXLPEは基本的に無極性高分子絶縁材料であるため電荷トラップ準位が浅く、電荷が蓄積しやすい。このため、LDPEやXLPEに替わる有極性の母体絶縁材料を見出し、各種添加剤との組み合わせでどれだけ電荷蓄積を抑えられるかに焦点をあてて検討する予定である。 また、分子動力学計算および量子化学計算によって母体絶縁材料であるLDPEおよびXLPE試料に各種添加剤を混入し、電荷トラップによって電荷蓄積特性が改善されるかを計算化学的にシミュレートする。本研究には、前回の科研費応募で購入できた2台を含むトータル3台のワークステーションを駆使して臨む予定である。特に分子動力学計算や量子化学計算にはかなりの時間がかかることが予想されるため、ワークステーションの並列化や外部機関のスーパーコンピュータ等を利用することも考えるべきかもしれない。 さらに、2023年度の手始めとして2022年度に得られた成果を学術論文(IEEE Transaction on Dielectric and Electrical Insulation)へ投稿予定である。
|
Causes of Carryover |
実験装置に関しては、昨今の材料調達等の値上げに影響されることなく、見積書の金額で無事に購入できた。しかしながら、新型コロナウィルス感染症の感染拡大によって国内学会および国際会議等がオンラインに切り替えられたことによって、旅費の使用が大幅に制限された。これが次年度使用額が生じた理由である。2023年度は徐々に制限が緩和されると考えられるため、2023年度の助成金と合わせてその多くは旅費に充てたいと考えている。また、学術論文投稿に向けた英文校閲代等にも充てたいと考えている。
|