2022 Fiscal Year Research-status Report
複数の電子輸送経路を構築可能な非縮環系n型半導体の開発
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22K05256
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
森 裕樹 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 研究准教授 (20723414)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 有機薄膜太陽電池 / 有機半導体 / n 型半導体 / π共役系分子 / 非フラーレンアクセプター / 光電変換効率 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに開発された高性能有機機薄膜太陽電池 (OPV) の活性層材料は、合成コストが非常に高いといった問題点を有していた。そのため、次世代の再生可能エネルギーであるOPVの普及に向けて、短工程で合成可能な高性能 n 型半導体を開発することは極めて重要な課題である。本研究では、研究代表者が独自に開発してきた (E)-1,2-ビス(5,6-ジフルオロベンゾ[c][1,2,5]チアジアゾール-4-イル)エテン (FBTzE) 骨格を用い、複数の電子伝導パスを形成する高性能非縮環型 n 型半導体の開発をおこなう。令和4年度では、「中心アクセプターと二つの末端アクセプターが互いに積層可能な S 型構造」を有する新規 n 型半導体 BEDP-IC-F の合成をおこなった。 まず、これまでに研究代表者らが確立してきた合成手法を基に、本研究の鍵となる中心 FBTzE 骨格を10 g スケールで合成した。続いて、FBTzE 骨格と連結するドナー骨格であるジチエノピラン (DTP) ユニットを合成した。得られたFBTzE 骨格とDTPユニットを用い、脱水素型カップリングによる合成を試みた。しかしながら、反応は全く進行せず、目的のカップリング体を合成することはできなかった。そこで直截アリール化によりFBTzE骨格とDTPユニットの連結を検討したところ、Pd触媒や配位子などの条件を最適化することにより、目的のカップリング体を得ることに成功した。今後は、ホルミル化と既に合成している末端 IC ユニットとのKnoevernagel 縮合により、目的の S 型分子 BEDP-IC-F を合成する。その後、有機薄膜太陽電池へと応用し、本分子設計の有用性を明らかとする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究で用いるジチエノピラン (DTP) ユニットは既に有機薄膜太陽電池 (OPV) 材料を開発するための構成要素として、様々な誘導体に応用されている。本研究でも報告されている合成法に従い、合成をおこなってきたが、いずれの合成手法においても 10~20% と極めて低収率であった。そのため、合成手法を種々最適化したが、文献の再現が得られなかった。また、FBTzE 骨格とDTP ユニットとの脱水素型カップリングや直接アリール化の過程でその原因がある程度明らかとなってきた。すなわち、DTP ユニット自体の化学的安定性が低い可能性である。文献ではDTP ユニットが特に不安定である描写は見られなかったが、脱水素型カップリングや直接アリール化の過程で明らかにその分解物であろう副生成物が得られていることから、DTP ユニットの収率が低いことや脱水素型カップリングが進行しない理由であると考えている。この予期していなかった理由が当初の予定よりも本研究が進んでいない要因である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の方策として、まず目的の S 型分子 BEDP-IC-F の合成を達成する。BEDP-IC-F の合成で最も困難となる合成過程である直接アリール化による合成は達成しているため、その後の合成は問題なく進行し、目的分子を得ることが期待できる。その後、得られた新規n型半導体のエネルギーレベルや熱安定性などの基礎物理化学特性の調査をおこなう。その後、既存のp型半導体と組み合わせた太陽電池へと応用し、その特性を評価する。また、実際の太陽電池素子を用いて、p型およびn型半導体を混合した状態での薄膜構造を調査し、太陽電池特性と薄膜構造との相関を明らかとする。得られた構造-特性相関を基に分子設計のフィードバックを行い、さらなる特性の改善を目指す。 一方で、次年度からはもう一つの標的分子である「四つの末端アクセプター部位を持つ H 型構造」を有する新規n型半導体 BEB3T-IC-F の合成に着手する。これまでに合成してきた FBTzE 骨格にアルコキシ基を導入した ROBTzE 骨格を合成し、別途合成したベンゾトリチオフェン (BTT) ユニットとの直截アリール化によって連結する。その後、ホルミル化と既に合成している末端 IC ユニットとのKnoevernagel 縮合により、目的の H 型分子 BEB3T-IC-F の合成を達成する。得られた分子は、上記と同様の手法により OPV への応用と各種物性測定をおこない、薄膜構造-OPV特性相関を明らかとする。
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