2022 Fiscal Year Research-status Report
拡散制御による太陽光駆動型アップコンバージョン系の開発
Project/Area Number |
22K05267
|
Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
由井 樹人 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (50362281)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
Keywords | アップコンバージョン / 閾値 / 太陽光駆動 / 拡散制御 / 三重項消滅 / 三重項寿命 |
Outline of Annual Research Achievements |
長波長の光を高エネルギーな短波長光へと変換する、フォトン・アップコンバージョン系(PUC)は、太陽光の高度利用のための重要な要素技術である。しかし、現在研究されているPUC系の多くは、光子密度が極めて高いレーザー光を光源として用いており、実質的に太陽光下で駆動 する反応系とは言い難い。我々は、分子の拡散現象という新たな視点に基づきPUCを開発し、非レーザー光であってもPUCが可能かつ、7 mW/cm2 以下という極めて低い閾値を観測することに成功している。これらの予備的検討をもとに、本系の更なる高性能化を行い、将来的には太陽光下で駆動するPUC系の構築を目指す。 拡散制御を行う媒体として、粘土鉱物やドナー・エミッターのイオン対などに着目して研究を行った。本年度では、イオン性のドナーとエミッター分子の合成を行い、これら分子群の基本的な光化学特性について詳細に調査した。独自合成したドナー分子は、水溶液においても約300マイクロ秒という極めて長い三重項寿命を有しており、有望なドナーであることを明らかにした。 さらに進んで、これらイオン性ドナーとエミッターの組み合わせを「水溶液中」で仔細に検討した。アニオン性のドナー分子とアニオン性のエミッター分子であるDCDPAを組み合わせたところ、非レーザー光源である通常の蛍光分光光度計を用いても良好なPUC発光が認められた。一方、カチオン性のドナーとエミッターの組み合わせでは、PUC発光が認められなかった。 これらをベースに本年度は、純水溶液を用いたアニオン・アニオンの組み合わせによるPUC特性に関して仔細に調査したところ、そのPUC閾値は測定下限の6mW/cm2以下であった。太陽光でPUCを行うための閾値目標は、概ね5mW/cm2であり、本系の閾値は、太陽光の有効活用に十分資する値である。 これらの成果を、学会発表や原著論文で発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
・イオン性ドナーおよびエミッター分子の合成と選択:研究目的を鑑みて、イオン性のドナーおよびエミッター分子系統的に比較することは極めて重要である。本年度は、カチオン性とアニオン性のドナー分子であるパラジウムポルフィリンを独自に合成し、その光化学挙動について仔細に調査した。合成したドナー分子は、イオン性に限らず300マイクロ秒という極めて長い三重項寿命を示し、ドナー分子として有望であることを明らかにした。さらに、イオン性のエミッター分子を種々合成し、その特性についても明らかにした。 ・純水溶液系でのPUC:得られたイオン性のドナーとエミッターを種々組み合わせてPUC特性を調査した。種々の比較検討から、アニオン性ドナー(PdTPPS)とアニオン性エミッター(DCDPA)の組み合わせが、純水溶液中で良好なPUC発光を示すことを明らかにした。この系を中心に、仔細な物性調査を行ったところ、本系のPUC閾値は、測定下限である6 mW/cm2以下であることを明らかにした。太陽光でPUC反応を行う閾値の目安は5mW/cm2以下であることから、本系は極めて有望な太陽光駆動型PUCとなりうる。特に、環境負荷が低く、多くの応用分野への展開が期待される水溶液系での構成のPUC系の発見は、極めて興味深い。 ・イオン性の相違:現在のところ、アニオンのドナーとアニオンのエミッターの組み合わせのみが、良好なPUC発光を示している。しかし、PUCの初期過程である、エネルギー移動の速度定数は、PUC発光を示した系と示さない系で相違はない。また、PUC発光を示さないカチオン性エミッターでも拡散制御系ではPUC発光を示すことから、本研究のコンセプトである拡散制御が極めて重要であることが明らかとなった。
|
Strategy for Future Research Activity |
・カチオン性エミッターの改良:純水溶液系では、アニオン性エミッター(DCDPA)のみが良好なPUC発光を示し、カチオン性エミッター(An-DPA)は、PUC発光を示さなかった。その原因の一つとして、An-DPAの対イオンであるヨウ素イオンの影響が考えられた。ヨウ素イオンは、エネルギー移動反応を阻害することを明らかにしており、さらにエミッターの三重項寿命を減ずる可能性も考えられた。現在、ヨウ素イオンを極限まで減らしたエミッターの合成を行っている。 ・エミッターの三重項特性の観測:エミッターのイオン性がPUCに大きく影響を与えることを明らかにしてきたが、どの過程がPUCを阻害しているか不明である。時間分解分光法を適応して、DCDAPおよびAn-DPAの三重項寿命を測定することで、反応のボトルネックを明らかにする。さらに、上記の改良型An-DPAと比較して、PUC系の高性能化を図る。 ・拡散制御系への適応:均一溶液系でAn-DPAは、PUC発光を示さなかったが、An-DPAの基本性能はDCDPAと相違がない。さらに、clayを用いた拡散制御系にAn-DPAを適応すると、PUC発光が観測されることがわかった。この結果は、分子の基本性能だけでなく、系中の種々の化学種の拡散が反応に大きな影響を及ぼしていることを強く示唆する。上記の検討に加え、拡散制御系の濃度や比率などを適切に制御して、PUCを支配する因子を明らかにする。さらに、時間分解分光や閾値測定などを併用することで、本系の性能と限界を明らかにして、高性能PUC系構築の足がかりを掴む。
|
Causes of Carryover |
共同研究により、活用を予定してた機器消耗品、機器使用料およびガスなどの消耗品費が縮減できた。研究費を有効活用するため、次年度への繰越を行うこととした。
|
Research Products
(6 results)