2022 Fiscal Year Research-status Report
ルテニウム錯体の酸化還元が誘起する含窒素化合物の変換による人工窒素サイクルの構築
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22K05302
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
長尾 宏隆 上智大学, 理工学部, 教授 (50211438)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三澤 智世 上智大学, 理工学部, 准教授 (30824726)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 窒素サイクル / ルテニウム錯体 / ピリジル配位子 / 酸化還元反応 / 含窒素化合物 / アニリン / アゾ化合物 / 多核錯体 |
Outline of Annual Research Achievements |
含窒素化合物としてアニリン、アゾベンゼン誘導体をルテニウム錯体上に固定したルテニウム錯体を合成した 。さらに、不活性な小分子化合物の変換反応場となるルテニウム中心間をニトリド、一酸化窒素(ニトロシル)あるいはオシキドが架橋した二核錯体も合成した。これらの錯体について物性を評価すると共にルテニウム錯体上での変換反応について検討した。 (i) アニリンルテニウム錯体の合成と反応:三座配位子のアルキルピリジルメチルアミノ酢酸イオンを支持配位子とするルテニウム錯体を合成した。塩基性条件での反応で配位したアニリン配位子の脱プロトンに伴い、ベンゼン環上での炭素ー水素結合の解裂と炭素ー酸素結合の形成が起こった。 (ii) アゾベンゼンを固定したルテニウム錯体の合成と性質:窒素固定のN-N結合変換のモデルとしてアゾ化合物のN=N結合の還元に伴うプロトン化や結合解裂に至る反応過程を検討するため、アゾベンゼン誘導体とビス(2,2'-ビピリジン)ルテニウム錯体の反応を行った。アゾベンゼンのフェニル基への置換基の導入により錯体の電子状態を制御したルテニウム錯体を合成した。 (iii) 小分子化合物の変換反応場となるルテニウム錯体二核錯体の合成と性質:架橋原子団の異なる3つのタイプのルテニウム二核錯体を合成し、それらの反応性を評価した。ニトリドが架橋した(2,2'-ビピリジン)(2-ピリジンカルボキシレート)ルテニウム二核錯体において共存する配位子の異なる5種の電子状態の異なる錯体を合成した。ニトロシルが二重に架橋したエチルビス(ピリジルエチル)アミンを有するルテニウム二核錯体の合成とこれを用いたニトロシルルテニウム錯体の合成を検討した。架橋配位子として酸素および炭酸イオンを有するエチルビス(ピリジルメチル)アミンルテニウム二核錯体を合成した。これらの錯体の電気化学的挙動などについて検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、ルテニウム錯体が窒素化合物の変換反応場となる反応、および錯体の酸化・還元反応に伴う窒素化合物の反応に着目し、元素収支やエネルギー収支を考えた温和な条件での人工的窒素サイクルの構築を目的としている。本年度は、窒素化合物としてアニリン、N-N部位を有するアゾ化合物を配位子とするルテニウム錯体の合成と、これらの錯体について性質・反応を検討した。ルテニウム錯体の中心金属周りの構造を保持する配位子(支持配位子)の種類により、目的となる窒素化合物の性質に合わせた最適な特性を示すルテニウム錯体を合成した。 (i) 芳香族アミンであるアニリンはアミンプロトンの解離が反応を誘起すると考え、ルテニウム(III)錯体の合成を行った。ルテニウム(III)状態を安定化するため、三座配位子のアルキルピリジルメチルアミノ酢酸イオンを支持配位子として用いた。アニリンルテニウム(III)錯体の合成が完了した。 (ii) 窒素固定のN-N結合変換のモデルとなる二窒素化合物としてアゾ化合物が配位したルテニウム錯体を合成した。支持配位子にはルテニウム(II)状態を安定化し、かつπ酸性配位子である2,2'-ビピリジンを用いた。アゾ化合物のN=N結合の還元に伴うプロトン化や結合解裂に至る反応過程を検討するため、アゾベンゼンのフェニル基に置換基を導入する方法を検討し、アゾフェニラト錯体に配位子反応とアゾ誘導体を原料とした合成法を確立した。 (iii) 小分子化合物の変換反応場となるルテニウム錯体二核錯体の合成では、架橋原子団としてニトリド、一酸化窒素、オキシドを用いて3種類のルテニウム二核錯体が合成できた。 本年度合成できたルテニウム錯体について分光学・電気化学的な特性については有機溶媒や水溶液中において測定を行い、基本的な物性評価はほぼ終了している。
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Strategy for Future Research Activity |
合成したアニリンとアゾ化合物をルテニウム中心に固定したルテニウム錯体の反応により窒素化合物の変換反応を検討する。 (i) アニリンルテニウム(III)錯体の反応:配位したアニリンからプロトンが解離することにより、ルテニウム中心とアニリンのフェニル基の電子的な相互作用が考えられる。プロトン解離反応を誘起するために、塩基性水溶液あるいはブレンステッド酸が共存する有機溶媒中で反応を検討する。 (ii) アゾベンゼンを固定したルテニウム錯体(アゾフェニラト錯体)の物性評価:アゾフェニラト錯体の電子状態を制御するために、アゾベンゼンのフェニル基への置換基を導入したルテニウム錯体を合成した。アゾ基は非共有電子対、およびエネルギーの低い空の軌道を有するためルイス酸の還元反応サイトとして期待される。アゾ化合物のN=N結合の還元に伴うプロトン化や結合解裂に至る反応過程を検討するため、合成した置換アゾフェニラト錯体の電子状態と反応性の評価を行う。 (iii) ニトリド架橋ルテニウム二核錯体の電子状態の評価と反応:共存する配位子の異なる5種の二核錯体の構造と電子状態を電気化学手法により評価する。架橋ニトリド部位とルイス酸の相互作用を利用した反応を検討する。 (iv) ニトロシル二重架橋ルテニウム二核錯体の生成反応と酸による分解反応:一酸化窒素(ニトロシル)が二重に架橋したルテニウム二核錯体から反応性の高いニトロシル配位子を有するルテニウム錯体の合成、およびこれを触媒や反応場として用いた反応を検討する。 (v) 酵素モデルとなるオキシド架橋ルテニウム二核錯体の合成と酸化還元反応:これまでに合成したオキシド架橋ルテニウム二核錯体の酸化・還元反応により電子状態の異なる錯体を合成し、物性を評価する。さらに、ルテニウム間距離を制御できる新たなビスイミノピロール四座配位子を合成し、支持配位子として用いる。
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Research Products
(8 results)