2022 Fiscal Year Research-status Report
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22K05345
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
鈴木 紀行 千葉大学, 大学院薬学研究院, 准教授 (10376379)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 生体微量元素 / セレニウム / 酸化ストレス |
Outline of Annual Research Achievements |
セレン糖は生体内のセレン代謝物としては特異な化学形態を有する重要な生体分子群であるにも関わらず、現在に至るまで生合成経路や生体内における役割などの基礎的な知見すら得られていない。申請者らは最近、セレン糖の生合成中間体と考えられているSeSugar Aの合成に世界で初めて成功し、そのサンプルを用いて分析条件を再構築することで効率的な分析法を確立した。このような背景のもと、セレン糖、特に従来はセレン糖生合成の単なる中間生成物と捉えられてきたSeSugar Aについて、その生合成経路と生体内における役割の解明することが本研究の目的である。 令和4年度においては、まずは様々な条件下におけるSeSugar Aの体内分布および動態を詳細に検討するために、亜セレン酸などのセレン化合物を投与後に生体内で生合成されるSeSugar Aの各組織中濃度を定量分析し、その経時変化を解析することで、SeSugar Aが主にどの組織中で生合成されているのか、また生合成されたSeSugar Aがどのように輸送され、分布し、利用されているのかを解明するための基礎的な情報を得ることとした。その結果、従来は肝臓中にのみ存在すると考えられていたSeSugar Aが、実は腎臓や腸管、血液などの様々な組織中にタンパク質結合型として存在しており、さらにそのSeSugar Aがセレンタンパク質の生合成に利用されていることを明らかにした。本知見は、SeSugar Aが生体内のセレン輸送に関与していることを示唆するものである。 またSeSugar類の生合成経路に関する検討に関しては、代表的なメチル化酵素に対してSeSugar Aが基質となるか否かについて検討を行い、SeSugar AからSeSugar Bへのメチル化代謝にチオプリン-S-メチルトランスフェラーゼが関与していることを示唆する結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初、令和4年度の研究計画においては、セレンの栄養源として通常摂取されるセレノアミノ酸類やセレン酸、亜セレン酸などのセレン化合物を投与後、生合成されるSeSugar Aの各組織中濃度を定量分析し、その経時変化を解析することで、SeSugar Aが主にどの組織中で生合成されているのか、また生合成されたSeSugar Aがどのように輸送され、分布し、利用されているのかを解明するための基礎的な情報を得ることを予定していた。そのためにSeSugar Aの合成標品を用いて従来の分析条件を再検討した結果、HPLCカラムおよび溶出溶媒を最適化することで、従来法では1サンプルに1時間ほどもかかっていたSeSugar Aの分析時間を、10分程度にまで短縮することに成功した。このハイスル―プット化によって多数のサンプルの分析が可能となり、体内動態に関しては令和4年度内で十分な検討を行うことが可能となった。その結果、SeSugar Aが生体内のセレン輸送に関与しているという、従来考えられていたものとは全く異なるSeSugar Aの生体内における役割を提案するに至った。 さらに令和4年度中にSeSugar類の生合成経路に関する検討についてもこれを開始し、未だ全容を解明するには至ってはいないものの、SeSugar類の最終産物であり、尿中排泄される化学形態であるSeSugar Bの生合成過程の一部を明らかにした。 以上のような理由で、本研究は当初の計画以上に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度においては、前年度までに行ったSeSugar類の生合成経路に関する検討を継続し、食事として摂取した様々なセレン化合物がどのような共通の中間体を経てSeSugar A、さらにはSeSugar Bへと変換されるのかについて検討を行う。特にSeSugar Aについては、その糖部分であるGalNAcがどのような前駆体に由来するのか、どのような活性セレン中間体が関与するのか、またどのような酵素が関与するのかなど、未だにすべてが未解明の状態である。発見されてから20年近くもこの問題が解決されていないのは、従来はSeSugar類の生合成中間体の合成標品が得られていなかったこと、またSeSugar類の分析に1サンプルあたり1時間の分析時間を要し、SeSugar類の生合成酵素の活性をアッセイするにあたってハイスループット化が困難であったためである。これらの問題はすでに申請者らによって解決されており、セレン糖類の生合成経路の全容の解明が期待できる状態である。また、この生合成経路を明らかにすることにより、「なぜほとんどのセレン糖はGalNAc型なのか」、また「セレン化合物については多くの場合、その硫黄等価体が存在するにも関わらず、セレン糖についてはセレンと硫黄が置換された化合物が全く存在しないのは何故なのか」といったセレン代謝に関する長年の大きな疑問に対する解答を得られると考えている。そのために、現在までに合成を完了しているGalNAc型のセレン糖類だけではなく、GlcNAc型、GalN型などの、生体内のセレン糖としてはマイナーな、糖部分の構造の異なるセレン糖類についても有機合成を行い、同様の検討に付すことを計画している。
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Causes of Carryover |
令和5年度においては、現在までに検討を行っているGalNAc型のセレン糖類だけではなく、GlcNAc型、GalN型などの、生体内のセレン糖としてはマイナーな、糖部分の構造の異なるセレン糖類についても有機合成を行うことを予定しており、それらの合成経路の探索に当初予定よりも多くの試薬、溶媒、器具の購入費用、機器使用料が必要となるため、次年度使用額として当該金額を残すこととなった。その他、令和5年度においては引き続き実験動物を用いた実験を行うこととなるために実験動物の購入費用を計上している。また生合成経路の解明にあたっては、生化学的または分子生物学的な検討をおこなうこととなるため、そのために必要な消耗品の購入を予定している。またさらに、前年度までの研究成果を発表するための投稿論文校閲料・論文投稿料を計上し、計4件の国内出張を予定している。
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