2022 Fiscal Year Research-status Report
植物の窒素欠乏応答戦略におけるマイクロRNAの役割の解明
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22K05368
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
櫻庭 康仁 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (80792192)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 窒素欠乏応答 / miRNA / 葉の黄化 |
Outline of Annual Research Achievements |
植物の成長には、土壌中からのバランスのとれた無機栄養素の吸収が必要である。窒素は植物にとって最も多く必要な栄養素の1つであり、窒素栄養が不足した環境では、植物の成長は著しく妨げられる。窒素欠乏環境において、植物は、窒素栄養の獲得に関わる輸送体遺伝子の発現を上昇させるなどの窒素欠乏応答と呼ばれる適応応答を示す。一方、小分子の非コードRNAのマイクロRNA (miRNA)は相補的な配列を持つmRNAの発現を抑制することが知られ、植物の様々な生物学的プロセスにおける発現制御機構において重要な役割を果たす。 申請者は、窒素欠乏応答の重要側面である葉の黄化に着目し、50種類のシロイヌナズナ野生系統において低窒素条件で葉の黄化の促進に関わる3つのNAC型転写因子遺伝子の発現量を調べ、それらを量的形質したExpression Genome-Wide Association Study (eGWAS)を行った。結果、3番染色体の短腕側に明瞭なピークが見いだされ、その近傍に、miRNAの生合成に関わるHASTYを見出した。また、低窒素条件において、HASTYの機能欠損は葉の黄化の進行を早めること、逆にHASTYの過剰発現は葉の黄化を遅らせることを明らかにしている。 そこで本研究では、まだほとんど明らかになっていないmiRNAを介した窒素欠乏応答の制御の全貌解明を目標として、窒素欠乏応答におけるHASTYの機能解析を通して、植物における窒素欠乏時のダイナミックなmiRNAの蓄積変動の分子メカニズムの解明、および窒素欠乏応答に関わる新規miRNAの同定と機能解析を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度は、通常育成条件および低窒素条件で育成したCol-0野生型株とhasty変異株を用いたmiRNAアレイ解析を行い、窒素欠乏条件でおよそ80のmiRNAの発現が顕著に減少し、その多くの発現がhasty変異株で下方制御されていることを明らかにした。また、hasty変異株でその発現が下方制御されているmiRNAのうち、miR781のシロイヌナズナ過剰発現株を作成し、その形質転換株において低窒素条件で葉の黄化が顕著に遅れたこと、葉の黄化に関わるNAP遺伝子の発現が顕著に減少することを明らかにし、miR781が窒素欠乏時の葉の黄化の抑制因子として働くことが示唆された。さらに、申請者が初年度に予定していた、HASTYの機能に重要なアミノ酸残基の解析も計画通りに進んでおり、HASTYの1006番目のスレオニン残基をアラニンに置換した場合、HASTYの相互作用因子として知られるRAN1やDCL1との相互作用が著しく低下することを、二分子蛍光相補(BiFC)アッセイおよびyeast two-hybridアッセイを行い明らかにした。全体的に、当研究は当初の計画よりも順調に進展しており、期待通りの成果が得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に行ったhasty変異株を用いたmiRNAアレイ解析により窒素欠乏応答に関わる可能性のあるmiRNAが複数同定されたため、次年度以降にそれらの機能解析を行い、窒素欠乏応答におけるそれらの生理的役割を明らかにしていく。現在、それらのmiRNAのシロイヌナズナ形質転換株の作製やそれらを用いた解析を進めている。一方、HASTYの機能解析に関しては、1006番目のスレオニン残基がリン酸化修飾を受けるアミノ酸残基であるかを、phos-tag電気泳動法やnanoLC/ISI/MS/MSを用いた解析によって検証していく。さらに、窒素欠乏処理を施したHASTY-MYC過剰発現株を用いてRIPアッセイを行い、窒素欠乏時のHASTYとmiRNAとの相互作用強度の変化も調べる。
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Causes of Carryover |
初年度計画していたmiRNAアレイ解析の費用は、当該予算から捻出することが難しかったため、所属研究室の他の予算から捻出した。そのため、当初計画していたよりも支出額は減少したため、50万円の次年度使用額が生じた。一方で、次年度に予定しているnanoLC/ISI/MS/MS解析に必要となる消耗品や論文公表にも費用が必要となるため、その費用に使わせていただく。
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